ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第19帖 薄雲 / 第11場面

王命婦への問い、秋の二条院

あらすじ・人物・読み方

太政大臣への任官はしばらく見送られ、源氏は位を添えて牛車を許されて参内退出するが、帝はなお親王にと望む。源氏は誰が秘密を漏らしたのか訝り、王命婦に対面して漏洩の有無を確かめ、藤壺の心深さを恋しく思う。秋、源氏は二条院の斎宮女御のもとへ赴き、親のようにもてなして世話をする。

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現代語で読む

太政大臣におなりになるべき定めがあるけれど、しばらく〔見送ろう〕とお考えのところがあって、ただ御位が添えて進み、牛車を許されて参内し退出なさるのを、帝〔冷泉帝〕は、飽き足らず、畏れ多い方とお思い申し上げになって、なお親王におなりになるべき旨をお思いになりおっしゃるけれど、

「世の中の御後見をなさるべき人はいない。権中納言が、大納言になって、右大将を兼ねているのが、今一段上がるだろう時に、何事も〔その人に〕譲ろう。そうした後に、ともかくも、静かな様子で〔過ごそう〕」

とお思いになっていた。なおお思い巡らすと、

「亡き宮〔藤壺〕のためにも痛わしく、また主上〔冷泉帝〕がこのようにお思い悩むのを拝見するのも畏れ多いのに、誰がこのようなことを漏らし奏上したのだろう」

と、不思議にお思いになる。

命婦〔王命婦〕は、御匣殿の替わった所に移って、局を賜って参上していた。大臣〔源氏〕は、対面なさって、

「このことを、もし、物事のついでに、露ほどにでも漏らし奏上なさったことがあったでしょうか」

とお尋ねになるけれど、

「まったく〔ございません〕。ひっかけてもお聞きになることを、大変なことにお思いになって、一方では、罪を得ることかと、主上〔冷泉帝〕のためを、なおお思い嘆いていらっしゃいました」

と申し上げるのにも、並々でなく心深くいらっしゃった〔藤壺の〕御様子などを、尽きることなく恋しくお思い申し上げなさる。

斎宮の女御は、〔源氏の〕お思いが明らかな御後見によって、高貴なご信任である。御用意や、御様子なども、思いのままに望ましくお見えになるので、畏れ多い方として大切にお世話申し上げていらっしゃった。

秋の頃、〔源氏は斎宮女御のもとへ〕二条院にお下がりになった。寝殿の御設えを、ますます輝くばかりになさって、今はまったくの親のようにもてなして、お世話申し上げなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第19冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。