ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第19帖 薄雲 / 第14場面

移り香と紫の上との語らい

あらすじ・人物・読み方

源氏の衣に残った移り香を女房たちが言い合う。対に戻った源氏は女御への思いを自ら戒めつつ、悩む女御の様子を思いやる。そして紫の上に、女御が秋に、紫の上が春の曙に心を寄せるのはもっともだと語らい、女御のために何かしてやりたいと漏らす。

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現代語で読む

しっとりとした御匂いが〔衣に〕残っているのさえ、〔女御には〕疎ましく思われる。女房たちが、御格子などを差し上げて、

「この御茵の移り香は、言いようのないほどすばらしいものですね」

「どうしてこのように〔香を〕取り集め、柳の枝に咲かせたようなご様子なのでしょう」

「恐れ多いほどに」

と言い合っている。

対にお渡りになって、すぐにはお入りにならず、ひどく物思いに眺めて、端近くに横になっていらした。燈籠を遠くに掛けて、近くに女房たちを伺候させなさって、お話などをさせなさる。

「こういう無理なことに胸がふさがる癖が、まだあったのだな」

と、ご自身ながらお思い知らされる。

「これはたいそう似つかわしくないことです。恐ろしく罪深い方面は多く勝っていたでしょうけれど、昔の好色は、思いやりの少ないほどの過ちとして、仏や神もお許しになったでしょう」と、思い鎮めようとするにつけても、「やはり、この道は、後ろめたく深い方面が勝っていたのだな」

と、お思い知らされなさる。

女御は、秋のあはれを知った顔に答え申し上げてしまったことも、「悔しく恥ずかしい」と、御心のうちで気詰まりに思って、悩ましげにまでしていらっしゃるのを、〔源氏は〕たいそうまっすぐに素っ気なくして、常よりも〔女房たちが〕親しげに歩き回っている。

女君〔紫の上〕に、

「女御が、秋に心を寄せていらしたのもしみじみと感じられ、あなたが、春の曙に心を染めていらっしゃるのももっともなことです。時々に応じた木や草の花に寄せても、御心が留まるほどの遊びなどをしたいものですが、公私の務めの多い身はふさわしくないので、どうにか思うことをしてあげたいと、ただ、あなたのためには物足りないかと思うのが、心苦しいのです」

などと語らい申し上げなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第19冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。