ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第20帖 朝顔 / 第5場面

噂と対の上の嘆き

あらすじ・人物・読み方

源氏と斎院のことは世間に漏れ聞こえ、二条院の対の上(紫の上)は人知れず思い嘆く。まめやかに苦しいと思えばこそ表には出さず、源氏は端近くで眺めがちに過ごし、文を書いては姫君の気配をうかがう。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

〔姫君は〕東の対に離れていらして、宣旨を迎えながら語らいなさる。お仕えする人々の、それほどでもない身分のことさえ、靡きやすいなどというのは、過ちも犯しそうで、結構なことと申し上げるけれど、宮〔姫君〕は、昔でさえ格別に思い離れていらしたのに、今はまして、誰も思いを寄せるはずのないご年齢、ご身分で、「はかない木草に寄せたお返事などが、折を過ごさないのも、軽々しいとお受け取りになるだろう」などと、人の物言いをお憚りになりながら、うちとけなさるご様子もないので、古風に同じ有様のご心ばへを、世の人とは変わって、珍しくも妬ましくも〔源氏は〕思い申し上げなさる。

世の中に漏れ聞こえて、「前斎院を、熱心に申し上げなさるので、女五の宮などもよろしくお思いだそうだ。ふさわしくない仲でもないだろう」などと言っていたのを、対の上〔紫の上〕は伝え聞きなさって、しばらくは、「そうはいっても、そのようなことがあるなら、隠してお思いにはならないだろう」とお思いだったが、ふと〔源氏を〕目に留め申し上げると、ご様子なども、例になく思いにふけっていらっしゃるのも心憂く、

「まじめにお思いになっているだろうことを、素知らぬふうに冗談に言いなさったのだろうと、同じ〔女性の〕筋ではいらっしゃるけれど、評判格別に、昔から高貴であると申し上げる方へ、〔源氏の〕お心などが移ったなら、みっともないことでもあるでしょう。長年のおもてなしなどは、並ぶ方もなく、さすがに馴れて、人に押しのけられること」などと、人知れず思い嘆かれる。

「音信が絶えて名残もないようにはおもてなしにならなくとも、たいそうはかない有様で見馴れなさった長年の睦まじさは、粗略な方にこそあるだろう」などと、さまざまに思い乱れなさるにつけ、適当なことなら、少し恨み言などを憎からず申し上げもするが、まじめに辛いとお思いになるので、表にもお出しにならない。

〔源氏は〕端近くで眺めがちに過ごし、宮中住まいが多くなり、用事といってはご文をお書きになるので、「本当に、人の言葉は空しいものであってはならないようです。様子だけでもお見せください」と、〔姫君は〕疎ましくばかり思い申し上げなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第20冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。