第20帖 朝顔 / 第6場面
雪の日、五の宮をおとずれる
あらすじ・人物・読み方
夕方、源氏は女五の宮の病気見舞いにかこつけて二条院を訪れるが、女君は若君に紛らわせて顔も見せず、背を向けて臥してしまう。源氏はもの思いに沈みながら出て行き、女君はその艶な姿を見送って心が揺れる。
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現代語で読む
夕方、神事なども終わって物足りないので、所在なく思い余って、五の宮のもとへ例によって近づき参りなさる。雪が散って艶のある黄昏時に、程よく馴れた御衣装を、ますます香を焚きしめて、心を込めてお仕上げ暮らしなさっているので、ますます心弱い人ならどうなることかと見えた。さすがに、〔女君は源氏を〕お通し申し上げはするが、〔言葉は〕申し上げなさる。
「女五の宮がお苦しみだそうで、お見舞い申し上げようと〔参りました〕」と言って、お座りになっているけれど、〔女君は〕見向きもなさらず、若君をもてあそび、紛らわしていらっしゃるそばで見る目が、ただごとでないのを、
「不思議に、ご様子の変わられるべき頃ですこと。罪もないのに。塩焼き衣〔普段着〕にあまり目馴れて、見飽きたとお思いになるのかと、絶えさせておくのを、またどうしたことか」などと申し上げなさると、「馴れてゆくことこそ、本当に、辛いことが多かったものです」とだけ言って、背を向けてお臥しになっているのを、見捨ててお出になる道すがら、もの憂いけれど、宮〔女五の宮〕へご意向を申し上げてあったので、お出になってしまった。
「こういうこともある世の中を、心安く過ごしてきたことよ」と思い続けて、〔女君は〕お臥しになっていた。重ねた御衣装ではあるけれど、色合いが重なり、好ましくかえって見えて、雪の光にたいそう艶なご姿を見やって、
「本当にお離れまさりなさったら」と、〔女君は〕堪えきれずお思いになる。
お前〔の人々〕などは忍びやかな限りとして、「宮中よりほかの歩きは、もの憂いほどになってしまったのか。桃園宮の心細い有様でいらっしゃるのも、式部卿宮に長年はお譲り申し上げてきたのを、今は頼みになさるなどと思いおっしゃるのも、もっともで、お気の毒なので」などと、人々に言いなさるけれど、「いやはや。ご好色心の古風なことが、惜しいご欠点のようです」「軽々しいことも出てくるでしょう」などと、つぶやき合っている。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第20冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。