第21帖 少女 / 第1場面
更衣のころ、前斎院への御禊の歌
あらすじ・人物・読み方
年が改まり喪が明けた更衣・祭のころ、源氏は前斎院(朝顔の姫君)へ御禊をことほぐ歌を藤の花に付けて贈り、姫君も喪の藤衣から禊へと移る世の移ろいを詠んで返す。源氏の公向きにまめやかな文使いを、姫君は扱いに困りながら受け流すしかない。
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現代語で読む
年が改まって、宮〔前斎院の父宮〕の喪の果て〔忌明け〕も過ぎたので、世の中の色合いも改まって、衣更えの時節なども今風で華やかなのを、まして賀茂祭のころは、世間一般の空の様子も気持ちよさそうであるのに、前斎院〔朝顔の姫君〕は所在なく物思いに眺めておられるのを、御前の桂の木の下を吹く風が、懐かしく感じられるにつけても、若い女房たちには思い出すことどもがあるところへ、大殿〔源氏〕から、
「御禊の日は、どのようにのどかにお思いでいらっしゃるでしょうか」
と、お便りを申し上げさせなさった。
「今日は、川の瀬の波さえ寄せては返すというのに、あなたが禊をなさる今日、その藤衣の姿に心を懸けて思いを寄せることさえ、どうしてできましょうか。
〔歌は〕紫の紙に、立文でしっかりと書いて、藤の花に付けてお届けになった。時節がしみじみとしたものであったので、〔前斎院から〕お返事があった。
藤衣〔喪服〕を着たのは昨日のことのように思われる間に、今日は禊の瀬に立つ身となりました。世はこのように移り変わるものなのですね。はかなくも」
とだけ書いてあるのを、いつものように、〔源氏は〕目を留めてご覧になる。
〔前斎院の〕御服直し〔喪服の仕立て直し〕の折などにも、宣旨のもとに、窮屈なほどに、〔源氏が〕お心を寄せなさることがいろいろあるのを、院は見苦しいこととお思いになりおっしゃるけれど、
「風情のある、気持ちをほのめかすようなお手紙などがあるならばこそ、あれこれお答えも申し上げようものを、長年も、公向きの折々のお便りなどはお受けし慣れておいでで、たいそうまめやかであるので、どうしてお答えを紛らわすことができましょうか〔できはしません〕」
と、〔前斎院は〕扱いに困っておられるようだ。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。