源氏物語 第21帖
少女 おとめ
あらすじ
年が改まり、源氏は前斎院の朝顔と御禊の歌を交わす。元服した夕霧は源氏の意向で大学に入って学問に励み、頭角を現す。大宮のもとで兄妹同然に育った夕霧と雲居雁の仲は、父の内大臣に知られて引き離され、雲居雁は引き取られていく。五節の舞姫をめぐる挿話、朱雀院への行幸での鴬の歌の贈答を経て六条院が完成し、秋好中宮の紅葉の消息に源氏が応える。大堰の明石の君も上京を決める。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面更衣のころ、前斎院への御禊の歌年が改まり喪が明けた更衣・祭のころ、源氏は前斎院(朝顔の姫君)へ御禊をことほぐ歌を藤の花に付けて贈り、姫君も喪の藤衣から禊へと移る世の移ろいを詠んで返す。源氏の公向きにまめやかな文使いを、姫君は扱いに困りながら受け流すしかない。第2場面女五の宮の御方、朝顔をめぐる応酬源氏は女五の宮にも折々文を贈り、宮は源氏の容貌と心ばえを褒めるが、若い女房たちはその古風さを笑う。宮が前斎院に源氏との縁を勧めると、姫君は亡き父宮にも頑固と思われて過ごした身の上を持ち出して断り、源氏は姫君の心が和らぐのを待つばかりである。第3場面若君の元服と学問論大殿腹の若君(夕霧)の元服は大宮の三条殿で行われ、世間は四位を予想するが、源氏は六位の浅葱にとどめる。源氏は大宮に、自分の経験を引いて官位より学問と大和魂を重んじる教育方針を説き、大宮の嘆きにも笑って、学べば恨みも解けると語る。第4場面大学の試し、笑いと詩文の宴夕霧の大学の試しの予行として、源氏は東の院で古式ゆかしい大学の作法を再現させる。博士たちの大げさな物言いとちぐはぐな装束に若い君達は笑いを堪えられず、夜には詩文の宴が明け方まで続き、夕霧の向学心が世に褒めそやされる。第5場面夕霧の勉学、大学へ源氏は夕霧を六条院に籠もらせ、学識深い師のもとで本格的に学問させる。夕霧はわずか四、五か月で『史記』を読み終え、源氏の御前の試しでも見事に読み通して一同を泣かせ、やがて大学へ参る日を迎える。
場面 第6–10場面
第6場面女御の座をめぐる争い斎宮女御を后に立てようとする源氏の動きに世間は反発し、弘徽殿方など各派が後見を理由に争うが、結局は梅壺の斎宮女御が后に立つ。源氏は太政大臣に上がり政務を譲り、頭中将は内大臣となって栄え、その娘雲居雁は大宮に預けられる。第7場面引き離される夕霧と雲居雁幼馴染として育った夕霧と雲居雁は十歳を過ぎて部屋を分けられ、父内大臣の意向で疎遠になる。夕霧は花紅葉や雛遊びに託して思いを寄せ、二人は互いに慕い合うが、後見たちは急には引き離せないと見守り、幼い文のやり取りも見隠しにしている。第8場面大宮のもと、楽の夕べ時雨の夕暮れ、大宮のもとで内大臣が雲居雁に琴を弾かせ、大宮と琵琶・箏・和琴を合奏し、女御の不遇や雲居雁の将来を嘆き合う。夕霧も加わって笛を吹き楽の夕べは深まるが、帰り際に内大臣は女房たちのささやきを聞き、娘への配慮のなさを悟って無言で立ち去る。第9場面太政大臣の帰り道の思い大宮邸からの帰り道、前駆を追う声を聞いた女房たちが夕霧の残り香に気づいて後ろめたい噂を交わす。太政大臣は道すがら、世間の口さがない噂と源氏への対抗心を思い、源氏との仲は表向き良いものの、こうした面では寝覚めがちに夜を明かす。第10場面漏れ聞こえた恋、大宮への抗議二日ほどして太政大臣が大宮邸を訪れ、夕霧と雲居雁の仲が漏れ聞こえたことを涙ながらに抗議する。頼りにして孫を預けたのに思いがけない事態だと嘆く大臣に、大宮は下の心を知らなかったと驚き、世間の噂で名が汚れると弁明するが、大臣は納得せず立ち去る。
場面 第11–15場面
第11場面乳母どもの嘆き、大宮の恨み事情を知る者たちは雲居雁を痛ましく思い、陰口をした女房たちは自分たちの睦物語を悔いて嘆く。姫君の乳母どもは知らなかった自分たちを責め合って弁明し、姫を大宮邸から引き取る話に安堵する。一方、大宮は源氏への愛情から太政大臣の言い分を恨めしく思い続ける。第12場面雲居雁への文、雁の歌内大臣に怨まれたことを大宮に切り出した夕霧は、真意を悟って赤面する大宮を前に、それ以上は言い出せない。夜、錠のかかった中障子越しに雲居雁の独り言と雁の歌を聞いた夕霧は心を乱すが、文を渡すこともできず、後見たちの騒ぎで思いはますます届かなくなる。第13場面姫君引き取りの申し出内大臣は大宮への恨みを抱えたまま参上せず、世の中を思い沈む女御を慰めるためと言って、大宮のもとで育つ雲居雁を急に引き取る。大宮は生き甲斐だった姫君との別れを嘆き、自分への隔てを疑う大臣の言葉に、恨みをこめて泣く。第14場面別れの日、大宮のもとで雲居雁が内大臣のもとへ移る日、夕霧は隙をうかがって大宮のもとを訪れる。大宮は愛育してきた雲居雁との別れを嘆きつつも、二人の仲を思いやって夕方の薄暗さの中で対面させる。二人は恥ずかしさに泣くばかりで、夕霧の恋しいかと問う言葉に雲居雁は小さくうなずく。第15場面屏風の後ろの贈答、明け方の別れ内大臣の帰邸の騒ぎの中で雲居雁は引き離され、乳母は夕霧を六位とあなどる言葉をつぶやく。夕霧は屏風の後ろから涙と浅緑を詠んだ歌を贈り、雲居雁が色と衣で返歌するが、内大臣が入って来て雲居雁は渡ってしまう。夕霧は嘆き明かし、霜の白い明け方に独詠して帰る。
場面 第16–20場面
第16場面五節の支度と舞姫六条院の大殿では今年、五節の舞姫を奉ることになり、童女の装束などの支度が進む。大殿の舞姫には容貌の評判高い惟光の娘が選ばれ、入念に仕立てられて参上し、御前での予行に居並ぶ。夕霧は舞姫に添い臥す母の北の方に母の若い頃の面影を見て、思わず神楽歌を口ずさむ。第17場面五節の参内、源氏の歌声の主が分からぬまま夕霧は立ち去る。五節の当日、源氏は参内し、舞姫たちが評判になる中で大殿の舞姫がひときわ優れる。源氏は昔心を寄せた惟光の北の方を思い出して歌を贈り、北の方からも過ぎた年月を詠んだ返歌が届く。惟光の望む宮仕えの話は進まず、北の方は口惜しさに涙ぐむ。第18場面夕霧の文、父に見つかる夕霧は惟光の娘の弟を通じて五節のことを尋ね、面影の恋しさに文を託す。緑の薄様に書かれた夕霧の歌を兄妹が見るうち、父の惟光が現れて文を取り上げるが、夕霧の戯れ心を褒めて母にも見せる。惟光は娘を源氏のもとへ奉る望みを語るが、皆は慌ただしく立ち去る。第19場面年の暮、大宮と夕霧雲居雁は文さえ夕霧に送れず、内大臣のことばかり気にかけて里を憂い籠もっている。大宮のもとで夕霧は雲居雁の容貌を思い、年の暮には正月の装束をいそぐ大宮と、六位の身を嘆く夕霧とが涙ながらに語り合う。第20場面朱雀院の行幸、鴬の贈答如月、朱雀院へ行幸があり、桜のもとで詩の試みや舞楽が催される。夕霧は苦しい学問の道を恨めしく思う。花の宴の昔を思い出す院に源氏が鴬の歌を贈り、院、帥の宮、冷泉帝と笛と鴬をめぐる贈答が交わされる。
場面 第21–23場面
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。