ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第21帖 少女 / 第10場面

漏れ聞こえた恋、大宮への抗議

あらすじ・人物・読み方

二日ほどして太政大臣が大宮邸を訪れ、夕霧と雲居雁の仲が漏れ聞こえたことを涙ながらに抗議する。頼りにして孫を預けたのに思いがけない事態だと嘆く大臣に、大宮は下の心を知らなかったと驚き、世間の噂で名が汚れると弁明するが、大臣は納得せず立ち去る。

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現代語で読む

二日ほどあって、〔太政大臣が大宮邸に〕お参りになった。頻繁にお参りになる時は、大宮もたいそう気が晴れ、嬉しいものにお思いになっていた。御尼額を引き繕い、端正な御小袿などをお着せ申し上げ添えて、子でありながら恥ずかしげでおいでになるご人柄なので、〔大宮は大臣に〕真正面からはお目にかかりなさらない。

大臣〔太政大臣〕はご機嫌が悪くて、

「ここ〔大宮邸〕に伺候するのもきまりが悪く、人々がどう見るだろうかと、気が置けるようになりました。頼りになる身ではございませんが、世にある限り、お目を離さずご覧いただき、不安な隔てなくとこそ思っておりました。

よからぬ者〔夕霧〕のことで、恨めしいと申し上げさせなければならないことが出来てまいりましたのを、このようにもお思いになるまいとは一方では思っておりましたが、やはり静め難く思われますので」

と、涙を押し拭いなさるので、宮〔大宮〕は、化粧なさっているお顔の色が変わって、お目も大きくなってしまった。

「どのようなことで、今さらの年月の末に、隔ててはお思いになるのだろうか」

と申し上げなさるのも、そうは言っても痛々しいけれど、

「頼もしいお庇護のもとに、幼い者〔雲居雁〕を差し上げ置いて、自分〔大臣〕はかえって幼い頃から〔夕霧を〕ご覧になることもできず、まず目の近くにいる者〔雲居雁〕が、交際など行き届かないのを、ご覧になって嘆き営みながら、それでも一人前にさせてくださるだろうと頼りにし続けておりましたが、思いがけないことがございましたので、たいそう残念で。

本当に天下に並ぶ人のない有職者〔源氏〕でおありのようですが、親しい間柄でこういうことは、人が聞いて思うところも、軽々しいようで、何ほどの間柄でもない仲でさえそうするのを、あの人〔源氏〕のためにも、たいそう不完全なことです。離れて、華やかで珍しげな所に、今風にもてなされるのは、結構なことです。縁を結び、ひねくれた様子で、大臣〔源氏〕も聞いてお思いになることがございましょう。

そうであるにしても、このようなことですと、お知らせくださって、わざわざもてなし、少し興味を引くようなことを交えてこそいたしましょう。幼い人々の心に任せて放ってご覧になっていたのを、心苦しく思います」

などと申し上げなさるので、〔大宮は〕夢にもご存じなかったことなので、あきれてお思いになって、

「本当に、そのようにおっしゃるのももっともですが、決してこの人々〔夕霧と雲居雁〕の本心は存じませんでした。本当に、たいそう残念なことは、こちらでこそまして嘆くべきでございます。一緒くたに罪をお負わせになるのは、恨めしいことです。

〔夕霧を〕拝見申し上げた時から、心から特にお思い申し上げて、あなた〔大臣〕が思い至らないことをも、優れた様子にもてなそうとこそ、人知れず思っておりました。まだ物の分からない年頃を、心の闇に惑って、急いで何かしようとは思いも寄らないことです。

それにしても、誰がこのようなことを申し上げたのでしょう。よからぬ世間の人の言葉によって、際立ってお思いになりおっしゃるのも、つまらなく、虚しいことで、人のお名が汚れるでしょう」

とおっしゃると、

「何の、浮ついたことでございましょうか。伺候しているらしい人々も、一方では皆が非難し笑うに違いないらしいものを、たいそう残念で、心安らかでなく思われずにはいられません」

と言って、お立ちになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。