ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第21帖 少女 / 第11場面

乳母どもの嘆き、大宮の恨み

あらすじ・人物・読み方

事情を知る者たちは雲居雁を痛ましく思い、陰口をした女房たちは自分たちの睦物語を悔いて嘆く。姫君の乳母どもは知らなかった自分たちを責め合って弁明し、姫を大宮邸から引き取る話に安堵する。一方、大宮は源氏への愛情から太政大臣の言い分を恨めしく思い続ける。

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現代語で読む

事情を知っている者同士は、たいそう痛ましく思う。一夜の陰口をした女房たちは、まして心持ちも変わって、「どうしてこんな親しげな物語をしたのだろう」と、思い嘆き合っていた。

姫君〔雲居雁〕は、何の心配もなくおいでになるのに、〔乳母たちが〕差し覗きなさると、たいそう可愛らしいご様子を、しみじみと拝見申し上げなさる。

「若い人とは言いながら、心が幼くおいでだったのを知らないで、たいそうこのように人並みに思っていた私こそ、かえって頼りなかったのだ」

と言って、御乳母どもを責めなさるので、申し開きのしようがない。

「このようなことは、この上ない帝の大切になさる姫君も、自然と過ちをする例が、昔物語にもあるようですが、様子を知って伝える人は、それ相応の暇があってこそでしょう」

「これは、明け暮れ立ち交じりなさって長年おいでだったのを、どうして、幼いご年頃を、宮〔大宮〕のおもてなし以上に行き過ぎてまで、隔て申し上げようと、打ち解けて過ごし申し上げてきたのを、一昨年ばかりからは、際立ったおもてなしになっておりますらしいのに、若い人とは言っても、打ち紛れてみて、どうだろうか、世馴れた人もおいでらしいのを、夢にも乱れたところがおありでないようなので、全く思い寄らなかったことです」

と、自分たち同士で嘆く。

「よし、しばらくは、このようなことは漏らすまい。隠しおおせるはずのないことだけれど、気を紛らわせて、ないこととだけでも言いなさい。今あちら〔大臣邸〕へお渡し申し上げよう。宮〔大宮〕のお心がたいそうつらいことだ。あなたたちは、それでも、たいそうこうなれとまでは、思われなかっただろう」

とおっしゃると、「痛ましい中にも、嬉しくおっしゃる」と思って、

「ああ、たいへんなこと。大納言殿〔源氏〕がお聞きになることさえ思いますと、めでたいことでも、普通の人の血筋は、何の珍しさにお思いかけになるでしょう」

と申し上げる。

姫君は、たいそう幼げなご様子で、あれこれおっしゃるけれども、効き目があるはずもないので、お泣きになって、

「どうにかして、無駄におなりになるはずのない方法はすべきだろう」

と、忍んで然るべき者同士がおっしゃって、大宮をばかり恨み申し上げなさる。

宮〔大宮〕は、たいそう痛ましいとお思いになる中にも、男君〔源氏〕へのお慕わしさが勝っておいでなのだろうか、〔大臣に〕このような心があったのも、可愛く思われなさるので、情けなく、この上ないことのようにお思いになりおっしゃったのを、

「どうしてそれほどまでのことがあるだろう。もともとひどく思いつきなさることもなくて、これほどまで大切に育てようともお思い立ちでなかったのを、私がこのようにもてなし始めたからこそ、東宮の御事をもお考えかけになったらしい。外して考えて、普通の人の宿世であるなら、この君〔雲居雁〕より他に勝るべき人がいるだろうか。容貌、様子から始めて、等しい人がいるはずがあるだろうか。これより及ばないだろう身分の者にも、とこそ思え」

と、自分の心ざしが勝っているからだろうか、大臣〔太政大臣〕を恨めしく思い申し上げなさる。〔源氏の〕お心の内をお見せ申し上げていたら、ましてどれほど恨み申し上げなさるだろう。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。