第21帖 少女 / 第13場面
姫君引き取りの申し出
あらすじ・人物・読み方
内大臣は大宮への恨みを抱えたまま参上せず、世の中を思い沈む女御を慰めるためと言って、大宮のもとで育つ雲居雁を急に引き取る。大宮は生き甲斐だった姫君との別れを嘆き、自分への隔てを疑う大臣の言葉に、恨みをこめて泣く。
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現代語で読む
大臣〔内大臣〕は、そのまま〔大宮の邸へ〕参上なさらず、宮〔大宮〕をたいそうつらい〔ひどい方だ〕とお思い申し上げなさる。北の方〔大宮〕には、このようなことだとは、様子もお見せ申し上げなさらず、ただ全般に、たいそう不機嫌なご様子で、
「中宮のお支度のために〔女御が〕参上なさっているのに、女御が世の中を思い沈んでおいでになるのを、心苦しく胸が痛むので、〔女御を内裏から〕退出させ申し上げて、心安く休ませ申し上げようと思います。そうは言っても、主上のおそばにずっとお仕えさせ申し上げて、夜も昼もおいでになるようなので、〔お付きの〕人びとも心が緩むことなく、苦しくわびしく思っているところへ」
とおっしゃって、急に〔女御を〕退出させ申し上げなさる。お暇も許され難いのを、〔女御が〕むずかっておいでになり、主上もしぶしぶにお思いになったのを、無理に〔大臣が〕お迎えなさる。
「〔女御が〕所在なく思われるでしょうから、姫君〔雲居雁〕をお渡しして、一緒に遊びなどなさい。宮〔大宮〕にお預け申し上げたのは、後ろ安いけれど、たいそうさくじり大人びた人たちが交じっていて、自然と気安い付き合いも、折の悪い頃になってしまったからです」
と申し上げなさって、急に〔姫君を女御のもとへ〕お渡し申し上げなさる。
宮〔大宮〕は、たいそうつまらない〔心外だ〕とお思いになって、
「一人おいでになった女〔娘〕が亡くなりなさってのち、たいそう寂しく心細かったのに、うれしくこの君〔雲居雁〕を得て、生きている限りの大切に育てる者と思って、明け暮れにつけて、老いのつらさも慰めようと思ってきたのに、思いのほかに隔てがあって〔大臣が〕お思いになるのも、つらく〔思います〕」
などと申し上げなさると、〔大臣は〕恐縮して、
「〔大宮が姫君を〕心に飽き足りなくお思いになることは、そのようにお思いになるとばかり聞いておりました。深く隔ててお思いになることは、どうしてございましょうか。〔決してございません〕。
内裏にお仕えする者〔女御〕が、世の中を恨めしそうにして、この頃退出してございますのに、たいそう所在なく思って沈んでおりますのを、心苦しくご覧になるので、一緒に遊び事などもして慰めよとお思いになって、しばらく〔こちらへ〕おいでになっているのです」と言って、「〔大宮が〕育て、人となさったことを、おろそかには決して思い申し上げません」
と〔大臣が〕申し上げなさると、〔大臣は〕このように思い立ってしまったので、お止め申し上げなさっても、思い返しなさるはずのお心ではないので、〔大宮は〕たいそう物足りなく残念にお思いになって、
「人の心こそつらいものですね。あれこれと幼い心にも、私に隔てをして疎ましかったことよ。また、そうでもあろうよ、大臣が、物の心を深く知っておいでながら、私を怨んで、このように〔姫君を〕連れてお渡しになることは。あちらで、これより安心なこともあるまい」
と、泣きながらおっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。