第21帖 少女 / 第14場面
別れの日、大宮のもとで
あらすじ・人物・読み方
雲居雁が内大臣のもとへ移る日、夕霧は隙をうかがって大宮のもとを訪れる。大宮は愛育してきた雲居雁との別れを嘆きつつも、二人の仲を思いやって夕方の薄暗さの中で対面させる。二人は恥ずかしさに泣くばかりで、夕霧の恋しいかと問う言葉に雲居雁は小さくうなずく。
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現代語で読む
ちょうどその折、冠者の君〔夕霧〕が参上なさった。「もし少しでも隙があるだろうか」と、このごろはひんぱんに〔雲居雁へ〕ほのめかしておいでだったのである。内大臣〔頭中将〕のお車があるので、気がとがめてきまりが悪く、そっと隠れて、ご自分の部屋にお入りになった。
内大臣の大殿の君達や、左少将、少納言、兵衛佐、侍従、大夫などという人々も、皆ここ〔大宮のもと〕に参り集まっていたけれど、〔大宮は〕御簾の内へはお許しにならない。
左兵衛督や権中納言なども、〔雲居雁とは〕母親が違うけれど、亡き殿のおもてなしのままに、今も参ってお仕えなさることが丁寧なので、そのご子息たちもさまざまに参上なさるけれど、この君〔夕霧〕に似るほどの輝く美しさは見られない。
大宮の〔夕霧への〕お心寄せも、比べようもなくお思いになっているのを、ただこの姫君〔雲居雁〕を、身近でかわいい者とお思い大切に育てて、おそばを離さず、愛らしいものとお思いになっていたのに、このように〔雲居雁が内大臣のもとへ〕お移りになってしまうのが、たいそう寂しいこととお思いになる。
殿〔内大臣〕は、
「今しばらくの間に、内裏に参内して、夕方ごろ迎えに参りましょう」
と言って、お出になった。
「言っても仕方のないことを、穏やかに言いなして、そういうことにもなるだろうか」と〔大宮は〕お思いになるけれど、やはり、たいそう気がかりなので、「〔雲居雁の〕お身のほどがもう少し重々しくなったときに、片端にならないよう見なして、その時までに、〔夕霧の〕心寄せの深さ浅さの様子をも見定めて、許すにしても、わざわざ特別な様子でもてなしてこそいるべきだろう。〔二人を〕制し諌めても、同じ一か所にいては、幼い心のままに、見苦しいことになるだろう。宮〔大宮〕も、まさか無理に制しなさることはないだろう」
とお思いになるので、女御のご退屈〔を慰めること〕にかこつけて、こちらにもあちらにも穏やかに言いなして、〔雲居雁を〕お渡しになるのであった。
大宮のお手紙で、
「大臣〔内大臣〕こそ、お恨みにもなりましょうが、君〔雲居雁〕は、それでも〔夕霧の〕心寄せのほどもご存じでしょう。〔こちらへ〕移ってお逢いなさい」
と申し上げなさると、〔雲居雁は〕たいそう美しく装い整えてお移りになった。〔雲居雁は〕十四歳でいらっしゃった。半人前に見えなさるけれど、たいそう子供らしく、しとやかに、愛らしいご様子でいらっしゃる。
「おそばを離し申し上げず、明け暮れの慰み者と思い申し上げてきたのに、たいそう寂しくもあることでしょうね。残り少ない年齢の身で、〔あなたの〕ご様子を見届けられないことと、命のことをこそ思ってきましたが、今になって見捨てて移っておいでになるのが、どこへ〔行くこと〕なのでしょうと思えば、たいそう悲しいことです」
と言ってお泣きになる。姫君〔雲居雁〕は、恥ずかしいことをお思いになるので、顔もお上げにならず、ただ泣いてばかりお泣きになる。男君〔夕霧〕のご乳母である宰相の君が出て来て、
「同じ君〔夕霧〕とこそお頼み申し上げてきたのに、残念なことにこのようにお移りになること。殿〔内大臣〕は別のようにお思いになることがおありでも、そのようにお思い靡きなさいますな」
などと、ささやき申し上げると、〔雲居雁は〕ますます恥ずかしくお思いになって、何もおっしゃらない。
「さあ、面倒なことを申し上げなさるな。人のご宿世というものは、それぞれ、たいそう定め難く」
と〔大宮は〕おっしゃる。
「いえいえ、取るに足らない者と侮り申し上げなさるようですよ。それでも、本当に、わが君〔夕霧〕が人にお劣り申し上げるのだと、お聞き合わせください」
と、少し気がかりなままに〔宰相の君は〕言う。
冠者の君〔夕霧〕が、物〔屏風など〕の後ろに入ってご覧になると、人が咎めるだろうことも、よい時であるからこそ苦しいことで、たいそう心細くて、涙を押し拭いながらいらっしゃる様子を、ご乳母はたいそう気の毒に見て、大宮にあれこれ申し上げて取り計らい、夕方の薄暗さで人の見分けがつかない頃に、〔二人を〕対面させなさった。
互いにひどく恥ずかしく胸がつぶれる思いで、何も言わずにお泣きになる。
「大臣〔内大臣〕のお心がたいそうつらいので、それなら、思い止まろうと思うけれど、〔あなたが〕恋しくいらっしゃるのが、どうにもならないでしょう。どうして、少しは隙がありそうだった日ごろに、よそよそしく隔てていたのでしょう」
とおっしゃる様子も、たいそう若々しく痛々しいので、
「私も、そのようでしょう」
と〔雲居雁は〕おっしゃる。
「恋しいとはお思いになるでしょうか」
とおっしゃると、〔雲居雁が〕少しうなずきなさる様子も、幼い感じである。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。