第21帖 少女 / 第15場面
屏風の後ろの贈答、明け方の別れ
あらすじ・人物・読み方
内大臣の帰邸の騒ぎの中で雲居雁は引き離され、乳母は夕霧を六位とあなどる言葉をつぶやく。夕霧は屏風の後ろから涙と浅緑を詠んだ歌を贈り、雲居雁が色と衣で返歌するが、内大臣が入って来て雲居雁は渡ってしまう。夕霧は嘆き明かし、霜の白い明け方に独詠して帰る。
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現代語で読む
御殿油が参り、殿〔内大臣〕がお帰りになる気配に、騒々しく追い払いの声を上げる御前駆の声に、人々は、
「そらそら〔殿のお帰りだ〕」
などと恐れて騒ぐので、〔雲居雁は〕たいそう恐ろしいとお思いになって震えなさる。それほど騒ぐのだからと、〔夕霧は〕ひたすらな心で、〔雲居雁を〕お放し申し上げない。ご乳母が参って〔雲居雁を〕お探し申し上げると、様子を見て、
「ああ、気に障ること。なるほど、大宮がご存じでないことではなかったのだ」
と思うにつけ、たいそうつらく、
「ああ、つらい世の中だこと。殿〔内大臣〕がお思いになりおっしゃることは、なおさら申し上げるまでもなく、大納言殿にもどうお聞かせになるのだろう。おめでたいことでも、物事の初めの六位の宿世よ〔夕霧がまだ六位であることが障りだ〕」
と、つぶやくのがほのかに聞こえる。〔夕霧は〕ただこの屏風の後ろに尋ねて来て、嘆いているのであった。
男君〔夕霧〕は、「私を位がないといって、辱めているのだ」とお思いになると、世の中が恨めしいので、〔雲居雁への〕愛しさも少し冷める気持ちがして、興ざめである。
「あれ〔乳母のつぶやき〕をお聞きなさい。紅の涙に深く染まった私の袖の色を、〔六位の〕浅緑だと言って折り隠すべきでしょうか。いえ、そうはできません。〔位の低さを言われるのは〕恥ずかしいことです」
とおっしゃると、
さまざまに、わが身のつらさのほどが知られるのは、いったいどのように染めた中の衣なのでしょう。
と、〔雲居雁が〕物を言い終えないうちに、殿〔内大臣〕がお入りになったので、やむなく〔内大臣のもとへ〕お移りになった。
男君〔夕霧〕は、立ち止まっていた気持ちもたいそう体裁が悪く、胸が塞がって、ご自分の部屋にお伏せになった。
〔雲居雁が〕お車三台ほどで、忍ぶように急いでお出になる気配を聞くのも、心が静まらないので、大宮のお側から、「お参りなさい」と〔お呼びが〕あっても、寝ているようにして動きもなさらない。
涙ばかりが止まらないので、嘆きながら夜を明かして、霜のたいそう白い〔朝〕に急いでお出になる。泣き腫らした目も、人に見られるのが恥ずかしいので、大宮はまた、〔夕霧を〕お召しになってお側に置きそうなので、心安い所へと、急いでお出になるのであった。
道の間、人並み以上に心細く思い続けるにつけ、空の様子もひどく曇って、まだ暗かった。
霜や氷がひどく結ぶ明け方の薄暗さの中、空を掻き曇らすように降るのは、私の涙です。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。