第21帖 少女 / 第16場面
五節の支度と舞姫
あらすじ・人物・読み方
六条院の大殿では今年、五節の舞姫を奉ることになり、童女の装束などの支度が進む。大殿の舞姫には容貌の評判高い惟光の娘が選ばれ、入念に仕立てられて参上し、御前での予行に居並ぶ。夕霧は舞姫に添い臥す母の北の方に母の若い頃の面影を見て、思わず神楽歌を口ずさむ。
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現代語で読む
大殿〔源氏〕のところでは、今年、五節の舞姫を奉りなさる。さほどのお急ぎではないけれど、童女の装束などを、日が近くなったと言って、急いでお作らせになる。
東の院では、〔五節の〕参内の夜に付き添う人々の装束をお作らせになる。大殿〔六条院〕へは、大方の品々を、中宮からも、童や下仕えのための品などを、格別に立派に献上なさっていた。
過ぎた年に、五節などが中止になったが、その寂しかった思いの積もりを取り添えて、宮中のお方々の気持ちも、例年より華やかに感じられるはずの年なので、あちこちで競い合って、たいそう見事にあらゆる支度を尽くしなさるという評判がある。
按察使大納言や左衛門督や、上の五節には良清――今は近江守で左中弁である人――が〔それぞれ舞姫を〕奉っていた。〔帝は〕皆をお止めになって、〔舞姫はそのまま〕宮仕えすべきだという、特別の仰せ言のある年なので、〔人々は〕娘をそれぞれ奉りなさる。
大殿の舞姫は、惟光朝臣――津の守で左京大夫を兼ねている人――の娘で、容貌などがたいそう美しいという評判のある人を召す。〔惟光は〕つらいことに思っていたけれど、
「大納言が、外腹の娘を奉られるというのに、朝臣〔惟光〕の大切に育てた娘を差し出したところで、何の恥があるだろうか」
と〔人々に〕責められると、〔惟光は〕困って、どうせならそのまま宮仕えをさせようと思い定めていた。
舞の稽古などは、里邸でたいそうよく仕立て上げて、付き添いの世話役など、親しく身に添うべき人々は、たいそう念入りに選んで整えて、その日の夕方に〔娘を六条院へ〕参らせた。
大殿でも、御方々の童女や下仕えの優れた者をと、見比べて、選び出される気持ちは、それぞれの身分に応じて、たいそう晴れがましいものである。
御前に召してご覧になるための予行として、御前を歩かせようとお決めになる。捨て置くこともできず、それぞれに異なる童女たちの姿や容貌に、思い悩まれて、
「もう一人の〔舞姫の〕分を、こちらから奉りたいものだな」
などとお笑いになる。ただ〔舞姫への〕待遇や用意の差によって、選に入ったのであった。
大学の君〔夕霧〕は、胸ばかりが塞がって、物を見る気にもなれず、ひどく屈託して、書物も読まずに物思いに耽って臥せっておられたが、心も慰むかと立ち出て、〔賑わいに〕紛れて歩き回りなさる。
姿や容貌は見事で美しく、静かに艶やかでいらっしゃるので、若い女房などは、たいそう素敵だと拝見する。
上の御方に対しては、御簾の前にさえ、近づくようにはお振る舞いにならない。ご自身の心の習慣として、どうお思いなのだろうか、〔夕霧が〕よそよそしいので、御達なども遠慮がちなのを、今日は物事の紛れに、〔夕霧は〕入り込んでお立ちになっているようである。
舞姫を付き添いの者たちが下ろして、妻戸の間に屏風などを立てて、仮の設えにしてあるところに、〔夕霧が〕そっと近寄ってのぞきなさると、〔舞姫の母は〕苦しそうな様子で〔舞姫に〕添い臥していた。
〔舞姫は〕まさに、あの人〔母の北の方〕の若い頃の姿と見えて、もう少しすらりとして、様子などの気取りようも、美しい点は〔母に〕勝ってさえ見える。暗いので、細かには見えないけれど、〔母の〕面影がたいそうよく思い出される様子に、心が移るというのではないけれど、ただではいられず、〔夕霧が〕衣の裾を引いて音を立てなさると、〔北の方は〕何の気なしに、不思議だと思うところに、
「天におられる豊岡姫に仕える宮人も、
私が心を向けるしめを忘れるな、
乙女が袖を振る山の瑞垣の――」
とおっしゃるのは、唐突なことであった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。