第21帖 少女 / 第18場面
夕霧の文、父に見つかる
あらすじ・人物・読み方
夕霧は惟光の娘の弟を通じて五節のことを尋ね、面影の恋しさに文を託す。緑の薄様に書かれた夕霧の歌を兄妹が見るうち、父の惟光が現れて文を取り上げるが、夕霧の戯れ心を褒めて母にも見せる。惟光は娘を源氏のもとへ奉る望みを語るが、皆は慌ただしく立ち去る。
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現代語で読む
〔舞姫の〕弟の童で殿上する子が、いつもこの君〔夕霧〕のもとに参ってお仕えするのを、例より親しげに語りかけなさって、
「五節〔の姉上〕はいつ内裏へ参るのですか」
とお尋ねになる。
「今年だと聞いております」
と申し上げる。
「顔がたいそうよかったので、わけもなく恋しく思われます。あなたがいつも見ているのも羨ましいので、また見せてくれませんか」
とおっしゃると、
「どうしてそんなことができましょう。思うままにも見ることができません。男の兄弟だといっても、近くへも寄せてもらえないのですから、まして、どうして君達にご覧に入れることができましょう」
と申し上げる。
「それなら、文だけでも〔届けておくれ〕」
と言って〔文を〕お渡しになった。「前々からこういうことは言ってはいけないと言われているのに」と困ったけれど、強いてお渡しになるので、気の毒に思って持って行った。
年のわりには、心得があって書いたのだろうか、趣があると〔姉は〕見た。緑の薄様の紙で、好ましい重ねの色合いであるところに、筆跡はまだたいそう若いけれど、将来が見えて、たいそう趣深く、
日の光の中でもはっきり分かるでしょう。少女子が天の羽袖を振る姿に、私が心を掛けたことは。
二人で見ているところへ、父の主〔惟光〕がふと近寄って来た。〔兄妹は〕恐ろしくて呆然として、引き隠すこともできない。
「何の文だ」
と言って〔文を〕取ると、〔弟は〕顔を赤くして座っていた。
「よくないことをしたな」
と叱ると、弟は逃げて行くのを、呼び寄せて、
「誰のだ」
と尋ねると、
「殿の冠者の君〔夕霧〕が、かくかくとおっしゃってくださった〔文です〕」
と言うと、〔惟光は〕すっかり微笑んで、
「何と可愛らしい君〔夕霧〕の戯れ心であることか。お前たちは、同じ年なのに、頼りなくはかないようだよ」
などと褒めて、母君〔北の方〕にも見せる。
「この君達〔源氏〕が、もう少し〔娘を〕一人前に思ってくださりそうだったら、宮仕えよりは、〔大殿へ〕奉りたいものです。殿のご配慮ぶりを見るに、一度見初めなさった人を、ご自分からお忘れになるはずがないのが、たいそう頼もしいことです。明石の入道の例のようになるでしょうか」
などと言うけれど、皆は急いで立ち去ってしまった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。