第21帖 少女 / 第3場面
若君の元服と学問論
あらすじ・人物・読み方
大殿腹の若君(夕霧)の元服は大宮の三条殿で行われ、世間は四位を予想するが、源氏は六位の浅葱にとどめる。源氏は大宮に、自分の経験を引いて官位より学問と大和魂を重んじる教育方針を説き、大宮の嘆きにも笑って、学べば恨みも解けると語る。
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現代語で読む
大殿〔内大臣〕腹の若君〔夕霧〕のご元服のことを、〔源氏が〕お急ぎになるのを、二条院でとお思いになるけれど、大宮がたいそう見たがっておられるのももっともで心苦しいので、やはりそのままあちらの殿〔大宮の三条殿〕でさせ申し上げなさる。
右大将をはじめ申し上げて、御伯父の殿方、皆、上達部で高貴なご覚えが格別でばかりおいでになるので、主人方〔大宮方〕でも、我も我もと、しかるべきことどもは、それぞれにお仕え申し上げなさる。世間一般が揺れるように騒いで、窮屈なほどのご準備の勢いである。
〔源氏は若君を〕四位にしてやろうとお思いになり、世間の人も、きっとそうなるだろうと思っているのを、
「まだたいそう幼い年頃なのに、私の心のままになる世の中で、そのように思いがけなく〔高位に〕なるのも、かえって見慣れた〔ありふれた〕ことだ」
とお思いになってとどめなさった。
〔夕霧が〕浅葱〔六位の袍〕で殿上へお帰りになるのを、大宮は、飽き足らず情けないこととお思いになったのは、もっともでお気の毒なことだった。
〔源氏が大宮と〕ご対面があって、このこと〔元服の位のこと〕を申し上げなさるのに、
「ただ今、このように無理にまで、早く老い込ませるようなことはないはずですが、思うところがございまして、大学の道にしばらく学ばせようという本意がございますので、今の二、三年を無駄な年に思いなして、自然と朝廷にもお仕え申し上げるはずの程度になりましたら、その時こそ、〔夕霧は〕一人前になりましょう。
私自身は、宮中の中で育ちまして、世の中の様子も知りませんで、夜も昼も、御前にお仕えして、わずかにたわいない書物などを学んだだけでした。ただ、賢い御方〔父帝〕のお手からお伝えいただいたことでさえ、何事も広い心を知らない間は、文章の才能を学ぶにも、琴や笛の調べにも、音が耐えられず、及ばないところが多かったのでございます。
頼りない親に、賢い子が勝る例は、たいそう難しいことでございますので、まして、次々と伝わりながら、隔たっていくはずの将来が、たいそう気がかりであることから、〔夕霧の教育を〕考え置いております。
高い家の子として、官位や爵位が心にかなって、世の中の盛りに驕り慣れてしまうと、学問などに身を苦しめることは、たいそう遠いことのように思われるでしょう。戯れ遊びを好んで、心のままになる官職に昇ってしまうと、時流に従う世間の人が、陰では鼻で笑いながら、追従し、顔色をうかがいながら従っている間は、自然と立派な人と思われ、高貴な様子ではあるけれど、時が移り、しかるべき人に立ち遅れて、世が衰える末には、人に軽んじ侮られるようになって、取り柄のないことになるのでございます。
やはり、才能を基としてこそ、大和魂が世に用いられる方も強いでしょう。当面は、心もとない様子ではございますけれど、最終的には世の重鎮となるべき心構えを学んだなら、私がいなくなった後も、後ろ安くあるはずであることからです。ただ今は、はかばかしくなくても、このように育てておりますなら、貧しい大学の学生だといって、笑って侮る人もまさかないだろうと思うのです」
などと、〔源氏が〕お話ししてお知らせなさると、〔大宮は〕お嘆きになって、
「本当に、このようにもお考え寄りになるはずのことでした。この大将〔右大将〕なども、あまりに引き違いなさったことだと、〔世間が〕傾けて〔噂して〕おりますようですが、この幼い心にも、たいそう残念で、大将や左衛門の督の子供たちなどを、自分よりは身分が低いと思い見下していたことさえ、皆それぞれ位階を加えられ昇りながら、大人びて競い合っているのに、〔夕霧が〕浅葱をたいそうつらいと思っておられるのが、心苦しいのでございます」
と申し上げなさると、〔源氏は〕お笑いになって、
「たいそう大人びていても恨んでいるようだね。何と頼りないことか。この人〔夕霧〕の程度は」
と言って、たいそう可愛らしいとお思いになっていた。
「学問などをして、少し物事の心得があれば、その恨みは自然と解けるでしょう」
と申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第21冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。