第23帖 初音 / 第13場面
男踏歌の夜
あらすじ・人物・読み方
男踏歌が内裏、朱雀院を巡って六条院に参り、夜明け方まで華やかに続く。月と薄雪の庭に笛の音が響き、御方々が見物する中、夕霧ら君達の姿と「竹河」の歌声が曙の空に映える。
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現代語で読む
今年は男踏歌があった。内裏から朱雀院に参って、次にこの院〔六条院〕に参る。道のりが遠いなどして、夜明け方になっていた。月は曇りなく澄み渡って、薄雪が少し降った庭の言いようのない美しさに、殿上人なども、楽器の上手が多い時分で、笛の音もたいそう面白く吹き立てて、この御前では特に心遣いをしていた。御方々が見物にお渡りになるようにと、あらかじめ御消息が届いていたので、左右の対や渡殿などに、御局を設けておいでになる。
西の対の姫君〔玉鬘〕は、寝殿の南の御方にお渡りになって、こちらの姫君と御対面があった。上〔紫の上〕も同じ所においでになるので、御几帳だけを隔ててお話し申し上げなさる。
朱雀院の后の御方などを巡っていたうちに、夜も次第に明けていくので、水駅で〔行列を〕削がせなさるはずのところを、例のあること以上に、別に趣向を加えて、たいそうもてはやさせなさる。
光の冷ややかな暁の月夜に、雪は次第に降り積もる。松風が木高く吹き下ろし、もの寂しくもなりそうなほどなのに、青色〔の衣〕がしおれているところに、白襲の色合いが、どんな飾りか見えるほど〔美しい〕。
挿頭の綿は、何の匂いもないものであるけれど、場所柄だろうか面白く、心が晴れて、命が延びるほどである。
殿の中将の君〔夕霧〕、内の大殿の君達が、特に優れて見目よく華やかである。
ほのぼのと明けていくのに、雪が少し散って、なんとなく寒いところに、「竹河」を謡って、行き交う姿、懐かしい声々が、絵にも描き留め難いだろうことが口惜しい。
御方々の、どれもどれも劣らない袖口が、こぼれ出ている仰々しさ、物の色合いなども、曙の空に、春の錦が立ち現れた霞のうちかと見渡される。不思議と心が晴れる見物であった。
それにしても、高巾子の世離れした様子、寿詞の騒がしさ、滑稽なことを、仰々しく取りなしたのは、かえってどれほどの面白いはずの拍子も聞こえないのに。例によって、綿を被って出て行った。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第23冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。