源氏物語 第23帖
初音 はつね
あらすじ
年立ちかへる新年の六条院。源氏は子の日に紫の上と歌を交わし、明石の姫君のもとでは母・明石の君の歌に姫君みずからの返歌を書かせる。花散里、玉鬘、明石の君、紫の上と御方々を渡り歩き、常陸の宮の御方(末摘花)や空蝉の尼君ら旧縁の人びとにも変わらぬ心を寄せる。男踏歌のにぎわいののち、後宴の催しを言い置いて帖を閉じる。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面新年の六条院、春の御殿の歯固めの祝い年の改まった朝、六条院は名残なく晴れて春めき、人の心ものびやかに見える。春の御殿では女房たちが歯固めの祝いに戯れ、源氏が覗いて笑いかけると、居合わせた夕霧が鏡の影に寄せた祈りをほのめかす。第2場面子の日の夕べ、御方々の参座と紫の上の歌朝のうちは人々が参り込んで騒がしかったが、夕方、装いを整えた御方々が参座し、紫の上は今朝の女房たちの戯れを羨んだと言って祝いの歌を詠む。源氏が返歌を詠み交わし、二人は末遠い契りを確かめ合う。その日は千年の春を祝うにふさわしい子の日だった。第3場面姫君の御方での小松引き、明石の君の歌と姫君の返歌源氏が姫君の御方へ渡ると、童女たちが御前の山で小松引きに遊び、北の御殿から鬚籠や破籠が届けられる。明石の君が松に引かれて年月を経た人へ初音を聞かせてほしいと歌を贈ると、源氏に促された姫君は、巣立った松の根を忘れないと返歌を書く。第4場面夏の御住まい(花散里)を訪れる源氏は夏の御住まいを訪れ、花散里と静かに語らう。年月を経ても隔てのない二人の仲と、源氏の変わらぬ心の長さへの思いが描かれる。第5場面西の対の玉鬘との対面源氏は西の対へ渡り、玉鬘と対面する。華やかな玉鬘の姿に心を引かれながらも、源氏は他の御方々へも渡るよう勧め、玉鬘はお言葉に従うと答える。
場面 第6–10場面
第6場面明石の御方の手習と歌、源氏そのまま泊まる夕方、源氏は明石の御方へ渡る。君の手習に書かれた歌や故事の断片を源氏が微笑んで眺めるうち、君の格別な趣に惹かれ、そのまま泊まる。第7場面曙に南の御殿へ渡り、紫の上の仮寝曙に源氏は南の御殿へ渡る。待ち受けていた紫の上は源氏の内心を量り、仮寝をして応じない。その様子をおかしく眺めながら、源氏は日高くなってから起きる。第8場面臨時客の御遊びと東の院の人びとの暮らし臨時の客を迎えた御遊びで、源氏の光に人々は気圧される。騒ぎを隔てて聞く御方々や東の院の人々の、願いに従った暮らしぶりが語られる。第9場面常陸の宮の御方を訪れる源氏は常陸の宮の御方(末摘花)を訪れ、その衰えた姿と寒げな装いを気の毒に思う。衣のことを尋ねると、鼻の赤い兄が打ち解け過ぎるほどに答え、源氏は向かいの院の御倉を開けさせて絹や綾を贈る。第10場面前栽の紅梅、源氏の独詠人住まぬ邸の静けさの中で、源氏は御前の木立と咲き出した紅梅の香りを見渡す。見てはやす人もない花に、昔なじみの里を訪ねた思いを独り詠むが、末摘花には聞き分けられない。
場面 第11–14場面
第11場面空蝉の尼君を訪れる源氏は空蝉の尼君を訪れ、仏道に勤める慎ましい暮らしと、なお残る心ばせに涙ぐむ。昔の契りのつらさを語り合ううち、尼君は今のありさまを見られることこそ報いだと泣き、源氏は昔今の物語をして過ごす。第12場面御蔭に隠れた人びとへの言葉源氏の御蔭に隠れて暮らす人びとは多く、源氏は皆を訪ねて、心は怠っていないと懐かしく語る。身分に応じて人をあわれむ仰々しくない心に頼り、多くの人びとが年を経てきたのだった。第13場面男踏歌の夜男踏歌が内裏、朱雀院を巡って六条院に参り、夜明け方まで華やかに続く。月と薄雪の庭に笛の音が響き、御方々が見物する中、夕霧ら君達の姿と「竹河」の歌声が曙の空に映える。第14場面踏歌の翌日、後宴の誘い踏歌が明け終わり御方々が帰った後、源氏は日高く起きて、夕霧の声を弁の少将に劣らないと愛でる。「万春楽」を口ずさみ、集まった人びとで楽器を試す私の後宴をしようと、秘めた御琴を引き出して調えさせる。
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第23冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。