第23帖 初音 / 第4場面
夏の御住まい(花散里)を訪れる
あらすじ・人物・読み方
源氏は夏の御住まいを訪れ、花散里と静かに語らう。年月を経ても隔てのない二人の仲と、源氏の変わらぬ心の長さへの思いが描かれる。
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現代語で読む
夏の御住まい〔花散里の御方〕を〔源氏が〕ご覧になると、時節外れのせいだろうか、たいそう静かに見えて、わざと目立つような好ましいこともなく、上品に住んでいる気配があたり一面に見渡される。
年月が経つにつれて、お心の隔てもなく、しみじみと情のこもったご仲である。今は、むやみに馴れ馴れしいご様子も、〔花散里は源氏に〕お振る舞い申し上げなさらなかった。たいそう睦ましく、得難いほどであろう夫婦の契りのことばかりを、互いに申し交わしなさる。御几帳が隔てているけれど、〔源氏が〕少し押しやりなさると、〔花散里は〕またそのままいらっしゃる。
「縹〔浅い藍色〕は、本当に、匂いの多くない間柄で、御髪などもたいそう盛りを過ぎてしまいました。〔私が〕優しい方〔情の細やかな男〕ではないので、葡萄鬘をしてこそお繕いなさるべきです。私でない人なら、見て興醒めしてしまうはずのご様子を、このようにして見ることこそ嬉しく本望です。心の軽い人の仲間として、私に背きなさっていたならば」などと、ご対面の折々には、まず、「私の心の長く変わらないことも、あなたの御心の重みも、嬉しく、思うとおりだ」
と〔源氏は〕お思いになっていた。細やかに、過ぎた年のお話などを、懐かしく申し上げなさって、〔源氏は〕西の対へお渡りになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第23冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。