ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第24帖 胡蝶 / 第10場面

朝の文

あらすじ・人物・読み方

源氏の真意を知った玉鬘は、思いもよらない世の中に嘆き、気分まで悪くしてしまう。翌朝届いた源氏の文には若草の歌が添えられ、玉鬘は素っ気ない返事だけを返すが、かえって源氏の恨みを招き、玉鬘の悩みは深まっていく。

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現代語で読む

女君〔玉鬘〕も、お年こそ〔成人を〕お過ぎになった頃ではあるが、世の中をご存じない中で、少し世慣れた人の有様さえ見知りなさらないので、これほど親しい様子になるとはお思い寄りにもならず、「思いもよらない世の中だったのだなあ」と嘆かわしい上に、たいそうご様子も悪いので、人々は、〔玉鬘の〕ご気分がお苦しそうに見えなさると、心配し申し上げる。

「殿〔源氏〕のご様子が、細やかで、もったいなくもいらっしゃいますことよ。本当のご親と申し上げても、これほど思いも寄らないことがなくては、〔源氏も玉鬘を〕お扱い申し上げなさらないでしょうに」などと、兵部〔の君〕なども忍んで申し上げるにつけて、〔玉鬘は〕ますます思いがけなく、好意の持てない〔源氏の〕お心の有様を疎ましく思い果てなさるにつけても、〔ご自身の〕身の上がつらかった。

翌朝、〔源氏からの〕お手紙が早くに届いた。〔玉鬘は〕苦しがって臥していらしたが、人々がお硯などをお持ちして、「お返事を早く」と申し上げるので、しぶしぶ〔文を〕ご覧になる。白い紙で、表向きは穏やかで、すっきりとしているのに、たいそう見事に〔源氏が〕お書きになっていた。

「比べるもののなかった〔昨夜の〕ご様子は、つらかったことも忘れがたい。〔他の〕人がご覧になったら、どう思ったことでしょう。打ち解けて一緒に寝たこともないのに、若草のようにわけあり顔に結ばれ、〔思い悩んで〕いらっしゃるのでしょう。〔あなたは〕幼くいらしたことです」

と、さすがに親らしく装ったお言葉も、〔玉鬘は〕たいそう憎らしいとご覧になって、お返事を申し上げないのも人目に不審なので、ふっくらした陸奥紙に、ただ、「承りました。乱れた気分が悪うございますので、申し上げられません」とだけあるのに、「このような様子は、さすがに素直でまっすぐだ」と〔源氏は〕ほほ笑んで、恨むところのある心地がなさる。嫌な心であることよ。

〔源氏が思いを〕表にお出しになってからは、〔人を長く待たせる〕「太田の松の」と思わせることもなく、気詰まりなことを申し上げなさることが多いので、〔玉鬘は〕ますます居場所のない心地がして、収まりどころのない物思いがついて、たいそう苦しくまでおなりになる。

こうして、事情を知る人は少なく、疎い者も親しい者も、まったくの親〔と子〕の様子だと思い申し上げているのを、「このような様子が漏れ出たら、ひどく人の笑いものになり、つらい評判にもなるだろうことよ。父である大臣〔頭中将〕などが尋ねて知りなさるにしても、〔源氏は〕まじめなお心遣いの方でもいらっしゃらないだろうのだから、ましてたいそう軽はずみに、〔父大臣が〕待ち聞きしてお思いになることでしょう」と、あらゆることに落ち着かず〔玉鬘は〕思い乱れなさる。

宮〔蛍兵部卿宮〕や大将などは、殿〔源氏〕のご様子を、〔玉鬘と〕離れがたい様子だと伝え聞きなさって、たいそう熱心に〔玉鬘へ〕申し上げなさる。この岩漏る中将も、大臣〔源氏〕のお許しが出たのを見て、片方からほのかに聞いて、本当の筋は知らず、ただひたすら嬉しくて、折々に恨み言を申し上げては惑い歩いているようだ。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第24冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。