ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第24帖 胡蝶 / 第3場面

兵部卿宮のかざし

あらすじ・人物・読み方

夜も明けきらぬ頃、中宮は鳥のさえずりをもの隔てて嫉ましく聞く。西の対の姫君・玉鬘の評判が高まる中、妻を亡くして独り住まいの兵部卿宮は藤の花をかざして源氏に懸想の歌を贈り、源氏は返歌で宮を切に引き留める。

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現代語で読む

夜も明けきらないうちに。ほの明るい朝の鳥のさえずりを、中宮〔秋好中宮〕は〔隔たりを隔てて〕うらやましくお聞きになった。いつも春の光をこめておいでの大殿〔源氏〕ではあるけれど、〔玉鬘に〕心を寄せる手がかりがほかにないのを物足りないこととお思いの人々もあったところに、西の対の姫君〔玉鬘〕の格別なご様子や、大臣の君〔源氏〕もわざわざお持ち上げ申し上げなさるご様子などが、みな世間に聞こえ広まって、〔源氏の〕お気持ちも明らかで、心を寄せなさる人が多いことだろう。

自分こそは〔玉鬘にふさわしい〕と自惚れなさる身分の人こそ、機会につけては〔好意を〕ほのめかし、言い出して申し上げなさることもあったけれど、〔思いを〕とても打ち明けられないまま胸の思いに燃えるような若君たちなどもいることだろう。そのうちでも、事情の内実を知らずに、内の大殿の中将〔夕霧〕などは、〔玉鬘に〕恋心を抱いているようである。

兵部卿宮〔蛍宮〕はまた、長年連れ添われた北の方がお亡くなりになって、この三年ほど独り住まいで寂しくお過ごしなので、今度こそはと張り切って、〔玉鬘への好意を〕ほのめかしなさる。

今朝も、たいそうひどく酔って乱れた様子で、藤の花を髪に挿して、優美に戯れなさっているご様子は、たいそう趣がある。大臣〔源氏〕も、〔宮の望みどおりの〕様子がかなうと内心ではお思いながら、せめて知らない顔をお作りになる。

お盃のついでに、〔宮は〕たいそう思い悩んだふりをして、「〔玉鬘を〕思う心がなかったら、逃げ出してしまいましょうに。たいそう堪えがたいことですよ」と抵抗しなさる。

紫〔玉鬘〕ゆえに心を占められたので、淵に身を投げるという評判も惜しくはありません。と言って、大臣の君〔源氏〕に、同じ挿頭〔藤の花〕を差し上げなさる。〔源氏は〕たいそうひどく微笑みなさって、

淵に身を投げてしまいそうだというのなら、この春は花のあたりを立ち去らずにご覧なさい。としきりに引き留めなさるので、〔宮は〕立ち去ることもできず、今朝のご遊びはなおさらたいそう面白い。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第24冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。