ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第25帖 蛍 / 第5場面

紫の上と菖蒲の歌の応酬

あらすじ・人物・読み方

源氏は紫の上のもとに休み、兵部卿宮の人柄を語る。紫の上は宮の大人びた様子をほめ、源氏は菖蒲の歌を贈り、紫の上も若駒の歌で返す。隔てなく語らう二人の仲が描かれる。

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現代語で読む

大臣〔源氏〕は、こちら〔紫の上のもと〕にお休みになった。物語などをお聞かせ申し上げて、「兵部卿宮が、人よりは格別に立派でいらっしゃるなあ。容貌などは優れていないけれど、心用意や様子などに風情があり、愛敬のある君だよ。忍んでご覧になりましたか。よいといっても、やはり〔玉鬘には〕まだ〔足りないところが〕ありますよ」とおっしゃる。

「ご弟君〔源氏〕でこそいらっしゃいますけれど、大人びてまさってお見えでした。年ごろ、このように折を過ごさずお渡りになり、睦まじく申し上げていらっしゃると聞いておりますけれど、昔、内裏のあたりでほのかに拝見申し上げた後は、はっきりしません。たいそうよく、容貌なども大人びてなさいましたこと。帥の親王がよくしていらっしゃるようですけれど、様子が劣って、大君らしい様子でいらっしゃいました」とおっしゃると、「ふと見知りなさったのだ」と〔源氏は〕お思いになるけれど、微笑んで、まだ〔言いたいことが〕あるのを、良いとも悪いともお言いかけにならない。

人のことを難をつけ、貶めるようなことを言う人を、気の毒な者とお扱いになるので、「右大将などをさえ、心憎い人にしているのを、どれほどのことがあろうか。近い縁で見るのは、飽きないことだろうか」と、〔紫の上は〕ご覧になるけれど、言葉に表しておっしゃりはしない。

今はただ大方のご親しみで、お座所なども別々にお休みになる。「どうしてこのように離れ始めたのか」と、殿〔源氏〕は苦しがりなさる。大方、あれこれとそばに付き従い申し上げもなさらず、年ごろこのように折々に催したお遊びどもを、人伝てに見聞きなさっていたところに、今日珍しかったことばかりを、この町〔西の対=玉鬘〕の評判がきらきらしているとお思いであった。

あの駒さえ進めない草と名高い汀の菖蒲を、今日はとうとう引きましたね。とおっとりと申し上げなさる。何ほどのことでもないけれど、〔紫の上は〕あはれとお思いであった。

鳰鳥に影を並べる若駒は、いつか菖蒲に引き別れられてしまうのでしょうか。隔てのないお言葉であることよ。

「朝夕の隔てがあるようだけれど、こうしてお目にかかるのは、心安いことです」戯れ言だけれど、のどやかでいらっしゃる人となりなので、静まってお答え申し上げなさる。

床を〔紫の上に〕お譲り申し上げて、御几帳を引き隔ててお休みになる。親しくなるような筋合いは、たいそう似つかわしくないはずの筋合いに、思い離れ果て申し上げていらっしゃるので、むやみにも申し上げなさらない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第25冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。