ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第26帖 常夏 / 第12場面

中納言の君の返歌

あらすじ・人物・読み方

文を笑いながら読む女御に代わって、中納言の君が返事を書く。常陸にあるはずのない駿河の海・須磨の浦・筥崎の松を連ねた返歌に女御は恥ずかしがり、受け取った近江の君は対面を期待して身づくろいに余念がない。

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女御が、ほほ笑んで置かせていらっしゃるのを、中納言の君という者が、近くにいて、そばから見た。「たいそう今風なお文の様子でもございますね」と、見たそうに思ったので、「草の文字は、見知ることができないからでしょうか、本末もなく見えますね」と言って、渡しなさった。「お返事は、こんなに仰々しく書かなくては、悪いと思い落とされるでしょう。そのままお書きなさい」

と、お譲りになる。表には出ていなくても、若い人々は、面白がって、皆うち笑った。お返事を乞うと、「面白いことの筋にばかり関わっておりますので、申し上げにくくて。宣旨書きのようでは、気の毒でしょう」と言って、ただ、お文らしく書く。

「近い証のないことが曖昧で、恨めしく思います、常陸にある駿河の海の須磨の浦に、波よ立ち出でよ、筥崎の松よ。

と書いて、読み上げ申し上げると、「まあ、情けない。本当に自分のことのように言いなさいましたね」と、傍らで見ていて痛いほどにお思いになったけれど、「それは聞く人が弁えてくれるでしょう」と言って、押し包んで出した。

御方〔近江の君〕が見て、「面白い御物の言いようですね。待つとおっしゃったのを」と言って、たいそう甘えた薫物の香を、返す返す焚きしめていらっしゃった。紅というものを、たいそう赤々と塗りつけて、髪を梳り繕っていらっしゃるのは、その方面では華やかで、愛嬌がある。御対面のほどは、行き過ぎたこともあるだろうか。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第26冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。