ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第26帖 常夏 / 第11場面

女御への文と支離滅裂な歌

あらすじ・人物・読み方

近江の君は弘徽殿女御へ、勿来の関や武蔵野を連ねた仰々しい文を送る。端には常陸・いかが崎・田子の浦・大川水と地名を脈絡なく連ねた歌が書き添えられ、文は撫子の花に結ばれて女御のもとへ届けられる。

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現代語で読む

まずお文を差し上げなさる。「葦垣のすぐ近くほどに伺候しながら、今まで影を踏むほどのご縁もございませんのは、勿来の関をお据えになったのでしょうか。存じませんが、武蔵野と言えば恐れ多いのですが。ああ恐れ多い、ああ恐れ多い」

と、点の多い文で、裏には、「本当に、日暮れにも参ろうとお思い立ちになるのは、嫌われるのではありませんか。まあまあ、不思議なのは水無川を」と言って、また端に、こうある。草若い常陸の浦のいかが崎、いかで逢って見よう、田子の浦波、大川水の……。

と、青い色紙を一重ねにして、たいそう草書がちに、乱れた筆づかいで、その筋とも見えず、漂った書き方は下長に、やたらと由緒ありげである。行のほどは、端の方に筋が交わって、倒れそうに見えるのを、ほほ笑みながら見て、さすがにたいそう細く小さく巻き結んで、撫子の花に付けた。

樋洗童が、たいそう馴れて清らかな、今参りの者であった。女御の御方の台盤所に寄って、「これを、差し上げてください」と言う。下仕えが見知って、「北の対に伺候する童でした」と言って、お文を取り入れる。大輔の君という者が、持って参って、引き解いて御覧に入れる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第26冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。