第26帖 常夏 / 第6場面
源氏の皮肉を聞く内大臣
あらすじ・人物・読み方
源氏の皮肉を聞いた内大臣は、西の対の姫君の高い評判を引き合いに出して源氏をやゆし、実の娘である玉鬘に会えない口惜しさを募らせる。源氏が丁寧に口添えしてくれれば折れようものを、男方は一向に焦らされず、内大臣の心は痛む。
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現代語で読む
内の大殿〔内大臣〕は、この今お迎えした御女〔近江の君〕のことを、「殿の人も許さず、軽んじて言い、世にも劣ったことだと非難し申し上げる」とお聞きになるにつけて、少将が、事のついでに、太政大臣〔源氏〕の「そんなことがあるか」とお尋ねになったことを、語り申し上げると、「賢いことだ。あそこでは、長年、音にも聞こえない山賤の子を迎え取って、もっともらしくしているというのに。滅多に人の上を非難なさらない大臣が、このあたりのことは、耳をとどめて貶めていらっしゃるよ。これが、評判のある心地がしたのだ」とおっしゃる。少将が、「あの西の対に据えていらっしゃる人は、たいそう格別な様子が見えるあたりだそうでございます。兵部卿宮なども、たいそう心をとどめて言いかねていらっしゃるとか。並々ではないだろうと、人々も推し量っております」と申し上げると、
「いや、それは、あの大臣の御娘と思うほどの評判がたいそう素晴らしいのだ。人の心は、皆そうであるような世の中らしい。必ずしもそう優れてはいまい。評判するほどなら、長年聞こえてきただろうに。惜しいことに、大臣の、塵もつかず、この世には過ぎていらっしゃる御身の評判や様子に、立派な腹に、娘を大切に育てて、本当に疵がないだろうと、思いやり素晴らしいものが、いらっしゃらないのは。大概は、子が少なくて、心もとないらしいね。劣った腹だけれど、明石の御許が産み出した者は、世にない宿世で、事情があるのだろうと思われるね。その今姫君〔近江の君〕は、様子次第では、実の御子でもあるまいね。やはり内大臣は、たいそう様子のあるところのついた人で、もてなしていらっしゃるのだろう」と、言い落としなさる。
「さて、どのようにお定めになるのだろう。親王こそお待ち得になるだろう。もとより格別に御仲がよく、人柄も立派な御間柄同士だろうね」などとおっしゃっては、やはり、姫君〔玉鬘〕の御ことが、飽きずに口惜しい。「このように、心憎くもてなして、どうしようなど、安からず気にさせたものを」と妬ましいので、身分がそれほどと見ない限りは、許しがたくお思いになるのであった。
大臣〔源氏〕なども、丁寧に口を入れ替えて下されば、負けるようにでも靡くだろうと思っていらっしゃるのに、男方は、いっこうに焦らされ申し上げなさらず、心が痛むのである。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第26冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。