第26帖 常夏 / 第7場面
雲居の雁への説教
あらすじ・人物・読み方
内大臣はふと雲居の雁のもとへ這い渡り、昼寝の姿を諌めて、女の身の守り方、源氏の姫君教育を引き合いに説く。幼いころ無心に源氏を見た昔を思い出して胸のふさがる姫君は、大宮の恨み言もあって父のもとへ渡ることもできない。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
あれこれ思い巡らすままに、ふと軽々しく這い渡りなさった。少将もお供に参上なさる。姫君〔雲居の雁〕は、昼寝をしていらっしゃる時分だった。羅の単衣を着て臥していらっしゃる様子は、暑くるしくは見えず、たいそう可愛らしくささやかである。透けていらっしゃる肌つきなど、たいそう美しい手つきをして、扇をお持ちになっていたそのままに、腕を枕にして、流れた御髪のほどは、たいそう長くごたごたとはしていないけれど、たいそう趣のある末つきである。
人々がものの後に寄り臥して休んでいるので、ふと目覚めなさらない。扇を鳴らしなさったのに、何心もなく見上げなさった目元は、可愛らしくて、頬が赤らんでいるのも、親の御目には美しくばかり見える。
「うたた寝は諌め申し上げるものですよ。どうして、こんなに他愛ない様子でお休みになっていたのか。人々も近くに仕えずに、不思議なことです。女は、身を常に心づかいして守っているのがよいはずです。気楽にうち捨てた様子にもてなしているのは、品のないことです。そうかといって、あまりに賢しく身を固めて、不動の陀羅尼を誦んで、印を作って座っているのも憎らしい。現実の人にもあまりに気遠く、隔てがましいことなどは、高貴なようでも、人に憎く、心美しくはないことです。太政大臣〔源氏〕が、后がねの姫君をお育てになるという教えは、すべてのことに通わせてなだらかにして、角々しい理由もつけず、あやふやにぼんやりすることもないようにと、緩やかにお決めになるそうです。なるほど、そういうこともあるけれど、人として、心にも行いにも、立ててなびく方は方とあるものだから、生まれ出なさる様子があるでしょう。この君〔雲居の雁〕の人となりは、宮仕えにお出し立てになる世の様子が、たいそう見たいものです」などとおっしゃって、
などとおっしゃって、「思うようにお育てしようと思った筋は、難しくなってしまった御身だけれど、どうにか人笑いにならずに仕立ててあげようと、人の上のさまざまなことを聞くごとに、思い乱れております。試し事に親しくする人の頼みごとに、決して靡きなさいますな。思うことがございます」など、たいそう可愛らしいと思いながら申し上げなさる。
「昔は、何ごとも深くも思い知らず、かえって、間近で気の毒だったことの騒ぎにも、臆面もなく見え申し上げたことよ」と、今思い出すにつけて、胸がふさがって、たいそう恥ずかしい。
大宮からも、常に定かでないことを恨み申し上げなさるけれど、このようにおっしゃるのが遠慮されて、お渡りして見申し上げなさることができない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第26冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。