ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第28帖 野分 / 第10場面

明石の御方への見舞いと独詠歌

あらすじ・人物・読み方

野分の翌朝、中将夕霧は心に思う筋立てに悩んでいつもよりしんみりし、見舞いの人は北へ通って明石の御方を眺める。明石の君は箏の琴を掻きまさぐって過ごし、端近くで風の騒ぎだけを尋ねて素っ気なく立ち帰る人を見送ると、荻の葉を過ぎる風の音をわが身にしむと詠む歌を独りごつ。

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現代語で読む

御簾の中にお入りになると、中将〔夕霧〕は渡殿の戸口に人々の気配がするのに近寄って、何かと言い戯れるけれど、心に思う筋立てがいくつも嘆かわしく、いつもよりしんみりとしておられた。こちらから、まっすぐ北へ通って、明石の御方のところを眺めると、しっかりした家司といった人は見えず、馴れた下仕えの女たちだけが、草の中に混じって歩いている。童女たちは、趣のある衵姿でくつろぎ、〔明石の君が〕心を留めて特に分けてお植えになった龍胆や、朝顔の蔓の絡んだ籬も、みな散り乱れているのを、あれこれ引き出して探し求めているようである。

〔明石の君は〕しみじみと感じられるままに、箏の琴を掻きまさぐりながら端近くに座っておられたところへ、御前駆を追う声がしたので、くつろいでしおれた様子の姿に、小袿を引き落としてきちんとけじめを見せたのが、たいそう痛々しい。〔訪れた人は〕端のほうにひざまずいて、風の騒ぎのことだけを尋ねて、素っ気なく立ち帰ってしまい、〔明石の君は〕心が痛むような様子である。一とおりに荻の葉を過ぎていく風の音までも、辛いわが身ひとつにしみ入る心地がすることよ。と独り言を言っていた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。