ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

源氏物語 第28帖

野分 のわき

あらすじ

秋好中宮の秋の花園を、例年になく激しい野分が吹き荒らす。その夕方、夕霧は西の対で妻戸の隙から玉鬘の姿を垣間見て、心を乱す。野分の翌朝、夕霧は見舞いに六条院を巡り、紫の上・中宮・明石の君を訪ね、西の対では玉鬘と歌を交わし、文をしたためて几帳越しにその姿を盗み見る。三条宮では内大臣が、実の娘に会えぬ嘆きを涙ながらに語る。

この帖の人物

場面 第1–5場面

第1場面野分の襲来と秋の花園秋好中宮の御前には源氏が植えさせた秋の花が見事に咲き誇り、春の御前に心寄せていた人々も移ろってくる。八月、故前東宮の忌月を静かに過ごす源氏のもとで花が色勝る頃、例年より激しい野分が吹き出し、源氏は散る花を案じて心を乱す。第2場面妻戸の隙からの玉鬘玉鬘のもとにいる源氏のもとへ参上した夕霧は、東の渡殿から妻戸の隙を覗き、風で屏風が畳まれた先に座る玉鬘の比類ない美しさに心を奪われる。やがて源氏が姿を現し妻戸の開いていたことに気づくが、夕霧は長年なかった幸運な垣間見を、風のおかげと喜ぶ。第3場面野分の夜、玉鬘のもとへの見舞い野分の風が強まる夜、人々が玉鬘のもとに参って風の被害を案じ、備えに騒ぎ立てる。三条の宮から駆けつけた夕霧は、心細がる大宮の様子を源氏に伝え、源氏は早く宮へ戻るよう促し、玉鬘には夕霧に任せるよう伝える。第4場面夕霧の見舞いと大宮の嘆き夕霧は日々三条の宮と六条院を見舞い、野分の日も風の中を大宮のもとへ参る。大宮は喜んで迎えるが、長年経験したことのない嵐に震え、木の枝の折れる音や瓦の吹き散るさまを嘆く。かつての勢いが衰え、夕霧を頼みとする姿に、世の無常と内大臣の疎遠さが重なる。第5場面夜通し玉鬘を思う夕霧夕霧は一晩じゅう、恋しく思う玉鬘のことを脇に置いて、先に目にした御面影が忘れられず、あるまじき思いが生じはしないかと自分を戒める。東の御方の並外れた美しさと大臣の心遣いに思いを巡らせ、あのような方と日々を過ごせたら命も延びようと思い続ける。

場面 第6–10場面

第6場面暁に東の御方を見舞う明け方に雨が降り出し、六条院の離れが倒れたと聞いた夕霧は、人手が少なく心細いであろう東の御方を案じて参上する。道中の冷たい雨のなかで自分の心に加わった新しい思いに気づき、ふさわしくないことだと自らを戒めながら、まず東の御方を慰めて修理のことを言い置き、南の御殿へ向かう。第7場面朝の庭と夫婦の語らい夕霧が南の御殿で待つなか、源氏は荒れた庭を見渡して涙ぐみ、目覚めた紫の上と、夜明けの別れを冗談めかして語らう。その後、源氏は格子を上げて夕霧に前夜の宮の様子を尋ね、宮に心を込めて仕えるよう言い聞かせ、内大臣の人柄を批評する。第8場面夕霧、中宮への消息と東の対の童女たち源氏は昨夜の暴風を案じて、夕霧に秋好中宮への見舞いの消息を持たせる。夕霧は東の対で、夜明けに虫の籠へ露を飼う童女たちの艶やかな姿に心惹かれながらも、そっと姿を現して消息を届け、宰相の君らと私語も交わす。第9場面南の御殿の秋好中宮への見舞い源氏は南の御殿に秋好中宮を見舞い、夕霧が中宮からの返事を伝える。源氏は夕霧の朝の姿を褒めつつ中宮の奥ゆかしさを語り、去り際、昨日の風の紛れに夕霧が中宮を垣間見したのではないかと戯れに問うと、中宮は顔を赤らめて否定する。第10場面明石の御方への見舞いと独詠歌野分の翌朝、中将夕霧は心に思う筋立てに悩んでいつもよりしんみりし、見舞いの人は北へ通って明石の御方を眺める。明石の君は箏の琴を掻きまさぐって過ごし、端近くで風の騒ぎだけを尋ねて素っ気なく立ち帰る人を見送ると、荻の葉を過ぎる風の音をわが身にしむと詠む歌を独りごつ。

場面 第11–14場面

第11場面玉鬘への戯れと贈答歌夕霧は西の対の玉鬘を訪ね、風にかこつけて戯れかけ、玉鬘は辛さに堪えかねて応じる。その様子を源氏が御簾の陰から覗き見て、二人の近さを訝しく思い、玉鬘の美しさをしみじみと眺める。やがて玉鬘が女郎花の歌を詠み、下露の歌が返されるが、その聞き取りは定かでない。第12場面花散里の裁ち物と源氏源氏は東の御方・花散里のもとへ渡り、朝寒のくつろぎ仕事に裁ち物をする年経た女房たちと、綿をまさぐる若い女たちを見る。引き散らされた布の色々の清らかさを、南の上にも劣らないと評し、御直衣の色を褒める。中将夕霧に着せる衣の色について言葉を交わし、源氏は渡っていく。第13場面夕霧、玉鬘に文を書き、その姿を垣間見る夕霧は玉鬘の部屋を訪ね、女房たちに紙と硯を借りて玉鬘への文をしたため、和歌を苅萱に結んで渡させる。玉鬘が通り過ぎる際、几帳のほころびからその細く愛らしい姿を垣間見て、藤の花にたとえ思いを募らせる。第14場面大宮のもとで内大臣、玉鬘に会えぬ嘆きを語る夕霧は祖母宮・大宮のもとにも参り、居合わせた内大臣と穏やかに語らう。内大臣は玉鬘に長く会えないことを嘆いて泣き、今のうちに参らせたいと言い、扱いにくい娘を持て余すと笑って語る。

出典・底本

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。