ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第28帖 野分 / 第9場面

南の御殿の秋好中宮への見舞い

あらすじ・人物・読み方

源氏は南の御殿に秋好中宮を見舞い、夕霧が中宮からの返事を伝える。源氏は夕霧の朝の姿を褒めつつ中宮の奥ゆかしさを語り、去り際、昨日の風の紛れに夕霧が中宮を垣間見したのではないかと戯れに問うと、中宮は顔を赤らめて否定する。

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現代語で読む

南の御殿では、〔源氏は〕御格子を一面に上げさせて、昨夜、見捨てがたく思った花々が、行方も分からないほどにしおれて倒れているのをご覧になったのであった。中将〔夕霧〕は、御階のそばに座っていらっしゃって、〔中宮からの〕お返事を〔源氏に〕申し上げなさる。「荒い風からもお守りくださるだろうかと、頼りなく心細く思っておりましたが、今ようやく慰められました」と〔中宮が夕霧に〕申し上げなさったので、

「不思議なほどか弱くいらっしゃる宮だ。女性同士では、もの恐ろしくお思いになったに違いない昨夜の様子だったので、なるほど、〔私の見舞いを〕なおざりだとお思いになっただろう」と言って、〔源氏は〕そのまま〔南の御殿へ〕参上なさる。〔女房たちが源氏に〕御直衣などを差し上げようとして、御簾を引き上げて〔源氏が〕お入りになる折に、「短い御几帳を引き寄せて、わずかに見える御袖口は、緋色に違いない」と思うと、胸がどきどきと鳴る気がするのも、嫌なことなので、〔源氏は〕よそへ目をそらした。

殿〔源氏〕は、御鏡などをご覧になって、ひそかに、「中将〔夕霧〕の朝の姿は、清らかそうだな。今はもう、厳しくしかるべき年齢なのに、たしなみがないように見えるのも、〔親としての〕心の闇のせいだろうか」と言って、ご自分の御顔は、老いがたく結構だとご覧になっているようである。たいそうひどく〔中宮のことを〕思い慕っていらっしゃって、「宮にお目にかかるのは、恥ずかしいことだ。どれほど表立った仰々しさもお見せにならない方が、奥ゆかしくお心遣いなさるものだよ。たいそうおっとりと女らしい方でありながら、風情を添えていらっしゃることだ」

と言って、〔源氏が〕お出になる折に、中将〔夕霧〕が物思いに沈んで、すぐには驚きそうもない様子で座っていらっしゃるのを、気が早い人〔源氏〕の御目にはどうご覧になったのだろうか、〔源氏は〕立ち戻って、女君〔秋好中宮〕に、「昨日、風の紛れに、中将〔夕霧〕は〔あなたを〕拝見してしまったのではなかろうか。あの戸が開いていたときにね」とおっしゃると、〔中宮は〕顔を赤らめて、「どうして、そんなことがありましょうか。渡殿の方には、人の音もしなかったのに」

と〔中宮は源氏に〕申し上げなさる。「やはり、怪しい」と独り言をおっしゃって、〔源氏は〕お渡りになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。