ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第28帖 野分 / 第8場面

夕霧、中宮への消息と東の対の童女たち

あらすじ・人物・読み方

源氏は昨夜の暴風を案じて、夕霧に秋好中宮への見舞いの消息を持たせる。夕霧は東の対で、夜明けに虫の籠へ露を飼う童女たちの艶やかな姿に心惹かれながらも、そっと姿を現して消息を届け、宰相の君らと私語も交わす。

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現代語で読む

「ひどく荒れ狂ったあの風のことでは、中宮のもとに、しっかりした宮司などがお仕えしていたのだろうか」と言って、〔源氏は〕この君〔夕霧〕に託して、〔中宮へ〕お見舞いの消息をお伝え申し上げなさる。「昨夜の風の音は、どのようにお聞きになったでしょうか。〔こちらでは風が〕吹き荒れておりました折に、〔私も〕病がちょうどぶり返しておりまして、たいそう堪えがたく、〔ご挨拶を〕ためらっております次第でございます」と〔夕霧は中宮へ〕申し上げなさる。

中将〔夕霧〕は〔御殿を〕下りて、中の廊の戸から通って、〔中宮の御殿へ〕参上なさる。夜明け方に見る〔夕霧の〕お顔立ちは、たいそう見事で趣がある。〔夕霧が〕東の対の南側に立って、御前の方を眺めなさると、御格子はまだ二間ほどしか上げておらず、ほのかな夜明けの光の中で、御簾を巻き上げて人々が座っていた。高欄にもたれかかって、若々しい女房ばかりが大勢見える。くつろいだ姿はどれほどかと思うが、はっきりしない曙の光の中では、色とりどりの姿が、どれもこれも趣深い。

〔明石の姫君は〕童女たちを〔庭へ〕下ろさせなさって、虫の籠に露を飼わせていらっしゃるのであった。紫苑や撫子のような、濃い色薄い色の下着の上に、女郎花色の汗衫などといった、季節に合った装いで、四、五人連れ立って、あちこちの草むらに近寄り、色々な籠を持って歩き回り、撫子などのたいそう可憐な枝を持って参る姿は、霧に迷うさまもたいそう艶やかに見えた。

吹いてくる追い風につれて、紫苑が一面に匂う空の香りも、〔姫君の〕お移り香のような香りも、〔夕霧がかつて姫君に〕触れた折のご気配だろうかと、たいそう思い巡らして素晴らしく、心惹かれて、立ち去りがたいけれど、〔夕霧が〕そっと咳払いをして歩み出なさると、人々は、露骨に驚いた顔ではないものの、皆すっと中へ入ってしまった。〔夕霧の〕ご参上の折などは、〔夕霧がまだ〕子供だった頃から、〔この東の対に〕出入りして馴れていらっしゃるので、女房たちも、たいそうよそよそしくはない。〔夕霧が〕お消息をお伝え申し上げさせなさって、宰相の君や内侍などが近くにいる気配はするものの、私的なこともひそやかに語り合っていらっしゃる。こちら〔中宮〕もまた、そうはいっても、気高く暮らしていらっしゃるご様子を見るにつけても、〔夕霧には〕あれこれと物思いが思い出される。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。