第29帖 行幸 / 第11場面
対面の余韻と内大臣の思い
あらすじ・人物・読み方
源氏は六条殿らしくない酔い泣きにしおれ、藤壺も玉鬘を思い出して尼姿で涙を落とす。夕霧のことは口に出されなかった。帰途、供の者たちは何事かと見当違いの噂をする。内大臣は、突然明かされた玉鬘のことに気がかりながら、源氏の真意をあれこれと思い巡らす。
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現代語で読む
「こうして参り会ってみると、やはり、久しくなった世の昔話が思い出されて、恋しいことの堪えがたさに、立ち去る心地もいたしません」
と言って、めったに心弱くおなりでない六条殿も、酔い泣きだろうか、しおれておられた。宮(藤壺)はまた、姫君(玉鬘)のことを思い出しなさるにつけ、昔に勝るご様子や勢いを拝見なさるにつけ、飽き足らず悲しくて、留めがたく、しおしおと泣かれる尼姿は、なるほど格別であった。
こうした機会ではあったが、中将(夕霧)のことは、〔大宮は〕口に出しておられなかった。一節の用意もないと思い置いておられたので、口を入れることも体裁が悪いとお思い留まり、あの大臣(源氏)もまた、人のご様子もないのに差し出がましくしにくくて、さすがにもやもやした心地でおられた。
「今宵もお供にお仕えすべきところを、突然騒がしくもなろうかと思いまして。今日のお礼は、改めて参ることにいたします」
とおっしゃると、
「それならば、このご病気もよくお見えですので、必ず申し上げた日を違えなさらず、お越しくださるべき」との旨を、申し上げてお約束なさる。
ご機嫌もよく、それぞれお出になる物音は、たいそう厳かである。君たちのお供の人々は、
「何ごとがあったのだろう。珍しいご対面で、たいそうご機嫌がよさそうだったのは」
「また、どのようなお譲りがあるのだろうか」
などと、見当違いの理解をしながら、こうした筋合いとは思い寄らなかった。
大臣(内大臣)は、突然のことでたいそう気がかりに、心もとなくお思いになるけれど、
「ふと、そのように受け取って、親らしくするのも具合が悪いだろう。尋ね当てなさった初めを思うと、きっと心清く見放しなさるまい。身分の高い方々を憚って、受け張ってその身際ではもてなさず、さすがに煩わしく、世間の聞こえを思って、こう明かしなさるのだろう」
とお思いになるのは、残念だけれど、
「それを傷とすべきことだろうか。わざわざでも、あのお方のあたりに触れさせようというのに、どうして評判が劣ろうか。宮仕えの方向へ向かわれるなら、女御などがお思いになることもつまらない」とお思いになるけれど、「ともかくも、思い寄っておっしゃる定めに違うべきことだろうか」
と、万事について思いなさっていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。