ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第29帖 行幸 / 第12場面

髪上げの日取りと玉櫛笥の歌

あらすじ・人物・読み方

対面は二月朔日のことで、十六日の彼岸の初めが玉鬘の髪上げの日に定まる。源氏は藤壺にふさわしい作法を細かに教え、夕霧にも内密に知らせる。その日、三条の宮から御櫛の筥とともに大宮の文が届く。震える筆で玉櫛笥にまつわる歌が添えられ、源氏はその古風な筆跡と歌の技巧を忍び笑う。

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現代語で読む

このようにおっしゃったのは、二月朔日ごろであった。十六日は、彼岸の初めで、たいそう良い日であった。近くにまた良い日がないと勘定して申し上げるうちに、宮(大宮)がお元気でおられたので、急いでお出かけになり、例の〔三条へ〕お出かけの際も、大臣に申し明らかにした様子など、たいそう細かにふさわしいことどもを教え申し上げなさると、

「しみじみとしたお心は、親と申し上げながらも、ありがたいことでしょう」

とお思いになりながらも、たいそう嬉しかった。

こうして後は、中将の君(夕霧)にも、内密にこのことの心をお知らせになった。

「不思議なことどもだ。もっともなことだ」

と、思い当たることどもがあるにつけ、あの冷たい人(雲居雁)のご様子よりも、なおも格別に思い出されて、「思い寄らなかったことよ」と、ぼんやりした心地がする。しかし、「あってはならず、ひねくれるべき身のほどだった」と思い返すことこそは、ありがたい真面目さであるようだ。

こうしてその日になって、三条の宮から、内密に御使いがある。御櫛の筥(くしばこ)など、俄かなことながら、事どもをたいそう清らかに整えなさって、お手紙には、

「申し上げるにも、忌ま忌ましいありさまを、今日は忍び込めておりますが、そうした方面でも、長い先例ばかりをお許しいただけるかと思いまして。しみじみと承り、明らかになった筋を書き申し上げるのも、どうでしょう。ご意向に従いまして。

二方から言い寄られている玉櫛笥の懸子(ふた)のように、私の身は離れることができないのです。

と、たいそう古めかしく震えて書かれたのを、殿(源氏)もこちらにおいでで、事どもをご覧になって定める段であったので、ご覧になって、

「古風なお手紙の書きぶりだが、ひどいなあ、このお手は。昔は上手にお書きになったのに、年に添えて、不思議と老いてゆくものであったのだ。たいそう辛くも、お手が震えるようになったことだ」

などと、繰り返しご覧になって、

「よくも玉櫛笥にまつわる歌をお詠みになったものだ。三十一字の中に、異なった文字を少なく添えていることの難しさだ」

と、忍び笑いなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。