第29帖 行幸 / 第9場面
内大臣、三条へ駆けつける
あらすじ・人物・読み方
太政大臣が三条の宮へ渡ったと聞き、内大臣は驚いて供の者を連れる支度をする。その折、大宮から、物寂しいので大げさにではなく来てほしい、対面で申したいこともあるという文が届く。何事かと胸を騒がせた内大臣は、雲居雁と夕霧のことかと思い巡らし、装束を整えて三条へ渡る。
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現代語で読む
内の大殿(内大臣)は、このように三条の宮へ太政大臣がお出かけになった由をお聞きになって、
「どんなに寂しい様子で、厳かなお姿でお待ち申し上げておられることでしょう。お側の者たちをもてなして、お座を引き整える人も、十分にはいないでしょう。中将は、お供にでもされているのでしょう」
などと、驚きなさって、ご子息の君たちや、親しくするのがふさわしい賓客たちを、お連れになる。
「果物やお酒などを、ふさわしく差し上げよ。私自身も参るべきだが、かえって騒がしくなるだろう」
などとおっしゃるうちに、大宮からのお手紙が届く。
「六条の大臣が見舞いにお越しになっていますが、物寂しいありさまですので、人目に気の毒でもあり、畏れ多いこともありますけれど、大げさに、こう申し上げたようなことではなく、お越しになってはいただけませんか。対面で申し上げたいこともあるようです」
と申し上げなさっていた。
「何ごとだろうか。この姫君(雲居雁)のこと、中将(夕霧)の嘆きのことか」と思い巡らすにつけ、「宮(大宮)もこのように余生も残り少ないご様子で、このことと切におっしゃり、大臣(源氏)も悪くない様子で一言切り出してお恨みなさるのに、あれこれ言い返せることはないだろう。冷たくして思い入れのない様子を見るのは心安くなく、ふさわしい機会があれば、人のお言葉に従う顔をして許してしまおう」とお思いになる。
「お心を合わせておっしゃること」と思い寄りなさるにつけ、「ますます断る理由がなくなるだろうが、また、どうしてそれほどでもあろうか」とためらわれるのは、たいそうよろしくない、あいにくなお心であることよ。「けれども、宮がこうおっしゃり、大臣も面会しようと待っておられるのなら、どちらにも畏れ多い。参ってこそ、ご意向に従おう」
などとお思いになって、お装束を心を込めて引き整え、お供の者なども大げさな様子ではなくお出かけになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。