第29帖 行幸 / 第8場面
玉鬘の素性を打ち明ける
あらすじ・人物・読み方
源氏は藤壺に、思い違いから不意に尋ね当てた人のことを打ち明ける。それが尚侍の候補として内裏でも噂になっている経緯を語り、藤壺から内大臣へ伝えるよう頼む。驚く藤壺に、源氏は詳しい事情は言わず、夕霧にさえ知らせていないと固く口止めする。
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現代語で読む
などと〔藤壺が〕おっしゃって、
「実は、あのお知りになるはずの人について、思い違いをしていることがございまして、思いがけず尋ね当てておりますのを、その折は、そのような過ちとも明らかにせずにおりましたので、強いて事の真相を尋ね返すこともなく、ただそのような血筋の者の少ないのを口実にしても、何ということもあるまいとお思いになりお許しになって、めったに親しくする様子もお見せせず、年月が経ちましたが、どうしてかお聞き及びでしょうか、内裏で仰せられるようなことがあるのです。
尚侍(ないしのかみ)は、宮仕えする人がいなくては、あの所(尚侍所)の政務が滞り、女官たちも公務をお仕えするのに手立てがなく、事が乱れるようであったのを、ただ今、主上にお仕えする古老の典侍が二人、またふさわしい人々がさまざまに推薦するので、はかばかしくお選びになるための人選に、比べるべき人がいないのです。
やはり、家柄が高く、人の評判も軽くなく、家政を取り仕切れる人が、昔からそうなってきたものです。したたかで賢い方面からの選出では、その人でなくても、年月の功労で昇ってゆく例はありますが、それほど比べるべき者もいないとなれば、一般の評判だけでもお選びになろうと、内々で仰せられていたのを、似つかわしくないこととまでは、どうしてお思いになるでしょう。
宮仕えは、ふさわしい筋合いで、身分の上下を問わず思い及び、出仕することこそ志の高いことです。公の場で、あのような所の事を取り仕切り、政務の趣を整え知ることは、はかばかしくなく、軽々しいように思われますが、どうしてまた、それほどでもありましょう。ただ、自分のありさまゆえに、万事がそう思われるのだと、思い弱っていたついでに申し上げるのです。
年齢のほどなどをお尋ねしたところ、あのご尋ねの〔尚侍候補の〕ことだったので、どういうことかとも、はっきり申し上げたく存じます。機会がなくてはお目にかかることもできそうにありません。じきにこういうことですと、明らかに申し上げる方法を思い巡らして、手紙を差し上げたのを、ご病気を理由に、もの憂げに断っておられました。
なるほど、折悪しく思い留まっておられますが、よくおいでくださったので、なお、この思い立った機会にこそと存じます。そのようにお伝えください」
と申し上げなさる。宮(藤壺)は、
「まあまあ、どういうことでございましょう。あちら(内大臣)では、さまざまにこうした名乗りをする人を、厭わず拾い集めておられるようなのに、どういうおつもりで、こう引き比べて恨み言を申し上げなさるのでしょう。この年ごろ、承って、なってしまったのでしょうか」
と申し上げなさると、
「そのような次第でございます。詳しい様子は、あの大臣も自然と尋ねお聞きになるでしょう。くだくだしい素人の仲間のようなことですので、明かすにつけても、騒がしく人が言い伝えるでしょうから、中将の朝臣(夕霧)にさえ、まだ分別して知らせておりません。誰にもお漏らしになりませんよう」
と、口止めを申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。