第30帖 藤袴 / 第10場面
鬚黒大将の執心
あらすじ・人物・読み方
大将・鬚黒は、玉鬘のことは源氏の意向次第だと聞き、弁の許を責める。鬚黒の北の方は式部卿宮の大君で紫の上の姉にあたるが、鬚黒の心はすでに離れている。
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現代語で読む
〔鬚黒〕大将は、この中将が同じ右の次将であることから、いつも呼び寄せては、親しく語らい、〔源氏〕大臣にも申し上げさせなさっていた。〔中将は〕人柄もたいそうよく、朝廷の後見役となるにふさわしい器量であるのを、「どうしてだめだろうか」とお思いになりながら、「あの大臣がこのように〔玉鬘を〕お扱いになっていることを、どうして異議を申し上げられようか。きっと何か事情があることなのだろう」と、心当たりの筋さえあるので、〔大臣に〕お任せ申し上げていた。
この大将〔鬚黒〕は、東宮の女御の同母兄でいらっしゃった。大臣たちに次ぐ地位で、それに次ぐご信任が厚く、たいそう高貴な方である。年は三十二、三歳ほどでいらっしゃる。
〔鬚黒の〕正妻は、紫の上の姉である。式部卿宮の長女である。年は〔鬚黒より〕三、四歳年長だが、特別な欠点もないのに、人柄がどうでいらっしゃったのだろうか、「老婆」とあだ名をつけて心にも留めず、どうにかして離縁しようと思っていた。
その縁により、六条の大臣〔源氏〕は、大将〔鬚黒〕のことは、「ふさわしくなく気の毒だろう」とお思いだったようである。色めいた乱れたところのない人柄ながら、〔鬚黒は〕たいそう熱心に言い寄って歩いていた。
「あの大臣〔源氏〕も、〔玉鬘を〕遠ざけてお思いでないわけではない。〔玉鬘〕本人は、宮仕えを気が進まないと思っているそうだ」と、内々の様子も、そのような詳しい伝手があるので、漏れ聞いて、
「ただ大殿〔内大臣〕のご意向が違うだけなのだろう。実の親〔内大臣〕のご意向さえ違わなければ〔何とかなる〕」
と、この弁の許もお責めになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第30冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。