第30帖 藤袴 / 第9場面
柏木と歌を詠み交す
あらすじ・人物・読み方
柏木は妹背山の歌で長年の恨みを訴え、玉鬘も返歌で応じる。柏木はこれ以上長居はできぬと告げて帰っていく。
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現代語で読む
妹背山の深い道を尋ねることもせず、緒絶の橋で踏み迷ってしまいました。よ」。
と恨むのも、人のせいではない(自分の心からである)。
迷っていた道を知らないまま妹背山を、誰もがたどたどしく踏んでみたことでした。
「どちらの方面の縁かと、お分かりにならなかったようです。何ごとも、どうしようもないほど、たいてい世間を憚っておられるようなので、申し上げることができないのです。自然にこのままでばかりもいないでしょう」
と申し上げるのも、そのとおりなので、
「よし、長居いたしますのも、興ざめなほどです。だんだん苦労が積もってこそ、恨み言も〔申せましょう〕」
と言って、〔柏木は〕お立ちになる。
月が隈なく昇って、空の様子も艶やかなのに、たいそう上品で清らかな容貌で、直衣のお姿は、好ましく華やかで、たいそう美しい。
宰相中将の気配や様子には、並ぶことはできないけれど、これ(柏木)も美しく見えるのを、「どうしてこのようなご関係なのだろう」と、若い人々は、例によって、あるまじきことまで取り立てて褒め合っていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第30冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。