第30帖 藤袴 / 第11場面
九月に集まる恋文
あらすじ・人物・読み方
九月、求婚者たちから文が届き、女房が読み上げる。鬚黒、蛍兵部卿宮、左兵衛督の歌が並び、人々は思い絶えぬ様子を嘆息する。
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現代語で読む
九月になった。初霜が結んでおり、艶やかな朝に、例によって、それぞれの後見役の人々が、恐縮しながら持って参るお手紙の数々を、〔玉鬘は〕ご覧になることもなく、〔女房が〕読み上げ申し上げるのを聞くだけでいらっしゃる。大将殿〔鬚黒〕のお手紙には、
「やはり頼みにしてきたのに、過ぎゆく〔秋の〕空の様子こそ、心を尽くさせるもので、数えられない身であれば、嫌いもしたでしょう。長月(九月)に命を懸けるほど、はかない思いです。
「月が経てば〔出仕する〕」という決まりを、〔玉鬘は〕たいそうよくお聞きのようである。
兵部卿宮〔蛍宮〕は、
「言っても甲斐のない世の中は、申し上げる方途もないのに、朝日が差す光を見ても、玉笹の葉に置いた霜は、消えずに残っていてほしい。〔私の思いを〕お知りくださるだけでも、慰められる方途もきっとありましょう」
と言って、たいそう趣のある、折れた枝に付いた霜も落とさずに持って参ったお使いまでも、〔歌に〕似つかわしいことよ。
式部卿宮の左兵衛督は、殿の上〔紫の上〕の同母弟である。親しく参上などなさる方なので、自然とたいそうよく事情も聞いており、たいそう思い悩んでいた。たいそう多く恨み言を書き続けて、
忘れようと思うこと自体が悲しいのに、どうすればよいのか、どうしようもない。
〔手紙の〕紙の色、墨のつき具合、染み込んだ香りも、さまざまであるのを、人々も皆、
「〔玉鬘が求婚者たちを〕お見捨てになりそうなのが、寂しいことです」
などと言う。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第30冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。