第31帖 真木柱 / 第2場面
霜月の沙汰と北の方の嘆き
あらすじ・人物・読み方
霜月になり、玉鬘の尚侍としての参内の沙汰が進む中、鬚黒の大将は昼も隠れるように籠もっており、尚侍の君は快く思わない。兵衛督は妹である大将の北の方の境遇を人笑いと嘆くが、今さら恨んでも甲斐がないと思い返す。まめ人で通してきた大将は玉鬘に心を奪われて人が変わったようになり、北の方は式部卿宮の娘らしく深い情のある方だったことを思い出しては、恥ずかしく残念に思い続ける。
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現代語で読む
十一月になった。神事などが頻繁で、内侍所にも用事が多い頃で、女官たちや、内侍たちが参りつつ、華やかに人が騒がしい中に、大将殿〔鬚黒〕は、昼もたいそう隠れるような様子で振る舞って、籠もっていらっしゃるのを、たいそう好ましくなく、尚侍の君〔玉鬘〕はお思いになっている。
宮〔式部卿宮〕などは、ましてひどく残念にお思いになる。兵衛督は、妹の北の方のご事までをも、人の笑いものだと嘆いて、重ね重ね思い悩みなさるけれど、「差し出がましく、〔大将を〕恨んで詰め寄っても、今は甲斐がない」と思い返す。
大将は、評判のまじめな人が、長年少しも乱れた振る舞いなく過ごしてこられたのが、名残なく心が晴れて、今までになかった様子で好ましく、宵や暁にひそかにお忍びになる出入りも、艶やかに取り繕っていらっしゃるのを、面白いことと人々は拝見する。
女〔北の方〕は、朗らかに賑やかに振る舞いなさる本来の性質も、押し隠して、たいそうひどく思いに沈み、心ならずも〔沈んだ〕様子は明らかなことであるけれど、「大臣〔源氏〕がお思いになるだろうことや、宮〔父の式部卿宮〕のお心のあり様が、心深く、情け深くいらっしゃったこと」などを思い出しなさるにつけ、「恥ずかしく、残念に」ばかりお思いになるので、〔大将に対する〕好ましくないご様子が絶えない。
殿〔源氏〕も、気の毒に人々も思い疑っていた筋を、さっぱりと明らかにしなさって、「自分の心ながら、突然ひねくれたことは好まないよ」と、昔からのことも思い出しなさって、紫の上にも、
「〔あなたが玉鬘のことで私を〕お疑いになっていたね」
などと申し上げなさる。「今さら人の心の癖が出るかもしれない」とお思いになりながらも、〔玉鬘のことが〕苦しく思われていた時、「そうなるかもしれない」と、お考え寄りになっていたことであるので、やはりお思いが絶えることがない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。