ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第31帖 真木柱 / 第4場面

式部卿宮の不興と迎えの相談

あらすじ・人物・読み方

鬚黒の北の方は物の怪に悩まされ夫婦仲も離れがちだが、大将はなお重んじている。ところが式部卿宮が玉鬘への移り心を聞いて怒り、東の対を整えて娘を引き取ろうと言い出し、北の方は思い乱れて病が悪化する。大将は取りなそうとするが、北の方は自分の至らなさを恥じ、父宮のことを持ち出す大将を恨めしく思う。

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現代語で読む

女君は、人に劣りなさるはずもない。〔女君の〕ご本性も、あのような高貴な父の親王に、たいそう大切に慈しまれたご寵愛は、世間でも軽くはなく、ご容貌なども、たいそう立派でいらしたのに、あやしく、しつこい物の怪に悩まされて、この数年、人並みでもいらっしゃらず、正気を失われる折々が多くおありになって、〔大将との〕ご夫婦仲も疎遠になって時が経ったけれど、高貴なお方としては、ほかに並ぶ人もなく〔大将が〕お思い申し上げていらしたのに、珍しく〔大将の〕お心が移ったお方が、並々でさえなく、人に優れていらっしゃるご様子であるうえに、あの疑いが起きて、人々が推し量ったことまでも、潔くやり過ごしていらしたことなどを、得難く痛ましいことと、〔大将が〕いっそうお思い申し上げなさるのも、もっともなことである。

式部卿宮が〔このことを〕お聞きになって、

「今となっては、あんな今風の人を引き渡して、大切に扱おうという片隅に、体裁悪く添っておいでになるのも、世間の聞こえが恥ずかしいに違いない。私がいるこちら側では、ひどく物笑いの種になるような仕打ちに従いなびかなくとも、お住まいになれるだろう」

とおっしゃって、宮の東の対を払い清め整えて、「〔娘を〕お迎え申し上げよう」とおっしゃるのを、「親の御そばとはいえ、今は〔夫のもとに〕限りある身であり、引き返してお目にかかること〔はできない〕」と、思い乱れなさるので、ますますご気分も悪くなって、そのまま臥せって苦しみなさる。

〔北の方の〕本性は、たいそう静かで心根がよく、子供らしいところのあるお方で、時々、心が乱れて、人に疎まれるようなことが、交じっていらしたのである。

お住まいなども、みすぼらしくだらしなく、物の清らかさもなく粗末にして、たいそう埋もれるようにしてお暮らしなのだが、玉を磨いたような〔玉鬘の〕目移りに、心は留まらなくても、長年の情愛に取って代わるものではないので、心の中では、たいそう痛ましいとお思い申し上げなさる。

「昨日今日の〔付き合いの〕、たいそう浅い〔付き合いの〕人のご夫婦仲でさえ、身分が相応であれば、皆思いが落ち着く面があってこそ、最期まで添い遂げるのだろう。たいそうご自身も苦しそうにしておいでなので、申し上げるべきことも口に出して申し上げにくいのです。

長年お約束申し上げてきたことではありませんか。世の人とも似ないご様子を、最期までお世話申し上げようとこそ、長年思いを抑えながら過ごしてきたのに、そう長くは続くまじいお心の持ちようで、お疎んじなさるな。

幼い人たち〔お子さま方〕もいらっしゃるので、あれこれにつけて、疎かにはしないと申し上げ続けているのに、女の御心の乱れがちなままに、このように恨み続けなさる。ひと通り最期まで見届けなさらないうちは、そうなるのももっともなことですが、〔私に〕お任せになってこそ、今しばらくご覧になって判断なさいませ。

宮がお聞きになってお疎んじ、さっぱりとふとお引き取りになろうとおっしゃるのは、かえってたいそう軽々しいことです。本当にそうお決めになったことなのでしょうか、しばらくお叱りになるのがよろしいことなのでしょうか」

と、少し笑いながらおっしゃるのが、たいそう妬ましく〔北の方は〕心が痛む。

お側仕えの人々として、お仕えして馴れた木工の君、中将の御許などという人々でさえ、身分につけても、「心安らかでなくつらい」と思い申し上げているのに、北の方は、正気でいらっしゃる時なので、たいそう慕わしく泣いておいでなのだった。

「ご自身を、惚けている、ひねくれている、とおっしゃって、恥をかかせるのは、もっともなことです。宮の御ことまで取り混ぜておっしゃるのは、〔宮が〕漏れお聞きになればお気の毒で、つらい身の縁者が軽々しく思われそうです。聞き慣れておりますので、今さら何も思い煩いはいたしません」

と言って、背を向けなさるのが、痛々しく愛らしい。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。