ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第33帖 藤裏葉 / 第1場面

冷えた結婚と極楽寺のほのめかし

あらすじ・人物・読み方

柏木は女二の宮との冷えた結婚の中で思いに苦しみ、源氏へ言い寄る機会を窺う。源氏も柏木の並々ならぬ決意を案じ、ほのめかす機会を探っている。三月二十日、大宮の忌日に極楽寺へ参詣した際、柏木は源氏の袖を引き寄せ、恨みの解けることをほのめかす。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

〔結婚の〕支度の間にも、宰相中将〔柏木〕は物思いにふけりがちで、ぼんやりした心地がするので、「一方では不思議なことに、我ながら〔思いは〕執念深いことだ。あえてこのように思い続けるのなら、関守〔源氏〕が、少しも眠れそうにない様子で思い弱っていらっしゃるというのを聞きながら、どうせなら、人に悪く思われない形で〔思いを〕見届けてしまおう」と心に念じるにつけても、苦しく思い乱れていらっしゃる。

女君〔女二の宮〕も、大臣〔源氏〕がほのめかしていらした話の筋を〔思い〕、「もし、そんなことになったら、〔私には〕何の未練が残ろうか」と嘆かわしく思って、不思議と〔夫婦は〕互いに背き合って、やはり〔これも〕一緒の恋の悩みである。

大臣〔源氏〕も、あれほど強がっていらっしゃったけれど、〔柏木の決意が〕並々でないことに思い悩んで、「あの宮に対しても、あのように思い立ってしまったら、またあれこれ思い直して関わり合うことになるうちに、〔柏木の〕ためにも苦しく、こちらの側でも物笑いになって、自然と軽々しいことが混じるだろう。隠そうとしても、内々の過ちも、世に漏れてしまっているに違いない。あれこれ紛らわせて、やはり〔柏木に〕負けてやるべきであるらしい」と、お思いになるようになった。

上は〔柏木に〕つれなく、〔源氏と柏木は〕恨みが解けない間柄なので、「不意に〔柏木に〕言い寄るのもどうか」と、思い憚って、「仰々しく扱うのも、人が思うところが気に障ることだ。どのような機会にほのめかすべきか」などとお思いのところに、三月二十日、大殿の大宮のご命日で、〔源氏は〕極楽寺に参詣していらっしゃった。

君達を皆引き連れ、勢いの盛んな様子で、上達部なども大勢参り集まっていらっしゃるところに、宰相中将〔柏木〕は、ほとんど気配りで劣らず、立派な装いで、容貌なども、ちょうど今が素晴らしい盛りで大人びていき、すべてを兼ね備えた見事な方のご様子である。

この大臣〔源氏〕を、つらいとお思い申し上げていた時から、お目にかかるのも、気遣いさせられて、たいそうひどく用心し、振る舞いを静めておいでになるのを、大臣も、普段より目をお留めになる。ご誦経などは、六条院からもおさせになっていた。宰相の君〔柏木〕は、なおさら、万事を取り仕切って、心を込めて営みお仕えする。

夕方になって、皆がお帰りになる頃、花は皆散り乱れ、霞がたどたどしい様子で、大臣〔源氏〕は、昔をお思い出しになって、艶やかに詩を口ずさみ眺めていらっしゃる。宰相〔柏木〕も、しみじみする夕べの景色に、たいそうしっとりと心打たれて、「雨の気配がある」と、人々が騒ぐのに、なお眺め入っておいでになった。〔柏木は〕心ときめいて〔源氏を〕ご覧になることがあったのだろうか、〔源氏の〕袖を引き寄せて、

「どうして、たいそうこの上なくお咎めになっていらっしゃるのですか。今日のご法事の縁をお尋ね思いなさるなら、〔私の〕罪をお許しになってくださいまし。残り少なくなっていく末の世に、〔私を〕見捨てていらっしゃるのも、恨み申し上げるべきことです」

と〔柏木が〕おっしゃると、〔源氏は〕少し畏まって、

「過ごされたご意向も、お頼み申し上げるべき様子で、承っておいたことがございましたが、お許しのないご様子に、憚り続けております」

と申し上げていらっしゃる。

心慌ただしい雨風に、皆が散り散りに競ってお帰りになった。君〔源氏〕は、「どう思って、普段と違い様子を改めていらっしゃったのだろう」などと、いつも心をかけているお方〔柏木〕なので、はかないことではあるが、耳に留まって、あれこれと思い明かしていらっしゃる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。