第33帖 藤裏葉 / 第2場面
藤の花の贈歌と源氏の許し
あらすじ・人物・読み方
内大臣は長年の思いを遂げようと心弱くなり、藤の花の盛りに柏木を招く歌を贈り、柏木も返歌する。柏木は源氏に文面を見せて許しを得、心ときめかせながらも不安を抱くが、源氏から立派な衣装一式を賜る。
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現代語で読む
何年もの〔内大臣の〕思いの証であろうか、あの大臣〔内大臣〕も、すっかり心弱くなって、ちょっとした機会に、あえてではなくても、さすがに〔柏木が婿として〕似つかわしいだろうと思われるにつけ、四月の一日ごろ、お庭の藤の花が、たいそう見事に咲き乱れて、世の常の色ではなく、ただ見過ごすには惜しい盛りであるので、管弦の遊びなどなさって、日が暮れてゆくにつれ、ますます〔藤の〕色が勝って見えるので、〔内大臣は〕頭中将〔夕霧〕を介して、お便りを〔柏木へ〕お送りになる。
「先日の花の蔭での対面が、飽き足りなく思われましたので、お暇がありましたら、お立ち寄りくださいませんか」
とある。お手紙には、
私の宿の藤の花の色が濃く見える夕暮れに、春の名残を尋ねておいでにはならないのですか。
なるほど、たいそう見事な〔藤の〕枝に〔歌を〕お付けになっている。〔柏木は内大臣の〕お越しを待ち受けていらっしゃったところでもあり、心もときめかされて、恐縮して〔返歌を〕申し上げなさる。
かえって手折ろうとして迷ってしまいそうです、たそがれ時で見分けのつかない頼りなさでは。
と〔返歌を〕申し上げて、
「残念なことに〔臆して〕ためらってしまいました。〔気分を〕取り直してくださいよ」
と申し上げなさる。
「〔私も〕お供に〔参りましょう〕」
と〔夕霧が〕おっしゃると、
「煩わしい随身は、結構です」
と言って、〔夕霧を〕お返しになる。
〔柏木は〕大臣〔源氏〕の御前に、こうこうです、と言って、〔内大臣の文を〕お目にかけなさる。
「〔内大臣には〕お考えがあってなさったことなのであろう。そうまで進んでなさるなら、過ぎ去った頃の〔私への〕孝行が足りなかった恨みも解けるだろう」
と〔源氏は〕おっしゃる。〔その〕お心の奢りぶりは、この上なく〔柏木には〕妬ましげである。
「それほどでもございませんでしょう。対屋の前の藤が、常よりも見事に咲いているとかで、静かな時分なので、管弦の遊びをしようなどということなのでしょう」
と〔柏木は〕申し上げなさる。
「わざわざ使いをよこされたのですから、早くお出かけなさい」
と〔源氏は〕お許しになる。〔柏木は〕どうなることかと、心の中では苦しく、ただ事ではない〔思いである〕。
「直衣はあまり〔色が〕濃くて、軽やかすぎるようだ。参議でない身分では、何気ない若者こそ、二藍がよかろう、〔着替えを〕取り繕おうか」
と言って、ご自分の御料の、心のこもった品々に、言いようもなく立派なお衣装を添えて、お供の者に持たせて〔柏木へ〕差し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。