ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第33帖 藤裏葉 / 第3場面

内大臣邸の藤の宴

あらすじ・人物・読み方

柏木が内大臣邸を訪れると、内大臣の子息たちが迎え、内大臣は北の方や女房たちに柏木の見事さを語ってから対面する。藤の花を愛でながらの酒宴で、内大臣は来訪の遅さを恨む歌を柏木に贈り、柏木と夕霧が返歌を詠み交わす。

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現代語で読む

〔柏木は〕自室で心を配ってたいそう念入りに身づくろいをし、黄昏も過ぎて気がもめるほどの時刻になって〔内大臣邸へ〕お出かけになった。主人のご子息たちが、中将を筆頭に七、八人連れ立って〔柏木を〕お迎え申し上げる。〔ご子息たちは〕皆それぞれ風趣のある容貌だが、〔柏木は〕やはり人より優れて鮮やかで清らかでありながら、親しみやすく上品で、こちらが恥ずかしくなるほどである。

内大臣は、〔柏木の〕お席を用意させるなどのお心配りが並々でない。ご自身も冠などをおつけになって出て〔柏木に〕お会いになろうとして、北の方や若い女房たちに、

「〔あの人を〕覗いてご覧なさい。とても見事に大人びて優れた人です。心配りなどもとても落ち着いて、堂々としていますよ。鮮やかで人並み外れて大人びている点は、父大臣〔源氏〕にも勝るほどでしょう。

あの方はただひたすら優艶で愛嬌があり、見ると微笑ましく、世の中を忘れる気持ちがおありです。公の場では少し砕けて戯れたところがおありだったのも、もっともなことでしたよ。

この方は才能の程度も優れ、心構えも男らしくまっすぐに申し分ないと、世評も高いようです」

などとおっしゃってから、〔柏木と〕対面なさる。真面目でもっともなご挨拶のお話は少しだけで、花を楽しむ趣向へお移りになった。

「春の花はどれも皆咲き出す色ごとに目を見張らないものはないのに、〔人は〕気が短く打ち捨てて散ってしまうのが恨めしく思われる頃、この花〔藤〕だけが遅れて残り、夏に咲きかかる時分が、不思議と奥ゆかしくしみじみと感じられます。色もまた、懐かしいゆかりの色にふさわしいでしょう」

と〔おっしゃって〕ほほ笑まれるご様子には趣があり、香りまで清らかなようである。

月は出たけれど花の色がはっきり見えないほど〔の明るさ〕であるのを、〔花を〕もてあそぶことに心を寄せて、大いにお酒が進み、管弦のお遊びなどをなさる。内大臣はまもなく空酔いをなさって乱れた様子で無理に酔おうとなさるのを、〔柏木は〕そういう事情を察して、ひどく〔酒を〕辞退して悩んでいる。

「君は末世に余るほど天下の有職者でいらっしゃるのに、年老いた人を思い捨てなさるのがつらかったのです。書物にも家礼ということがあるでしょうよ。私の教えもよくご存知だろうと思いますのに、ひどく心を悩ませなさるとは、恨み言を申し上げねばなりません」

などとおっしゃって、酔い泣きだろうか、おかしいほどに含みのあるご様子である。

「どうして〔そのようなことがありましょうか〕。昔を思い出すにつけご様子の変わられたことには身を捨てるほど〔お慕いして〕いることをご承知のはずなのに、どうしてお見限りとお思いなのでしょう。もともと至らない私の心の怠りのせいでしょうに」

と恐れ入って申し上げなさる。折よく〔人々が〕騒ぎ立てて、

「藤の裏葉の〔と歌の一節を口ずさむ〕」

と口ずさみなさったご様子を承って、頭中将〔夕霧〕は花の色が濃く、とりわけ房の長いものを折って、客〔柏木〕のお盃に添える。〔柏木が盃を〕取ってためらっていると、内大臣が、

紫ゆかりの藤の花に託して恨み言を言おうか。待ちに待って待ち過ぎて、恨めしく思われるけれども。

宰相〔柏木〕が盃を持ちながら様子だけで拝し申し上げている姿は、とても趣がある。

何度も露に濡れた春を過ごしてきて、今ようやく花の紐を解く折に巡り合うことよ。

〔その盃を今度は〕頭中将〔夕霧〕に賜ると、

女の袖かと見まがうような藤の花は、見る人によってこそ色もいっそう優れて見えるのだろう。

〔盃や歌が〕次々と順に回っていくようだが、酔いの紛れに捗々しくなく、これより優れたものはない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。