第33帖 藤裏葉 / 第5場面
夕霧の文と源氏の教え、灌仏の賑わい
あらすじ・人物・読み方
夕霧の後朝の文が届くが、雲居雁は返事を出しかね、居合わせた内大臣が文を見てしまう。六条の源氏は柏木を前に、女の道で乱れなかった態度を褒めつつ、内大臣の気性を説いて奢らぬよう諭す。灌仏の日、内大臣邸は源氏と柏木を迎えて賑わう。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
〔夕霧の〕お手紙は、なお人目を忍んでいた頃のような心づかい〔の文面〕であるのに、今日はなかなか〔雲居雁が〕お返事を申し上げられないのを、口うるさい女房たちがそわそわしていると、大臣〔内大臣〕が渡ってきて〔文を〕ご覧になるのは、まったく困ったことである。
「尽きることのなかったあなたのご様子に、ますます思い知らされるわが身のほどを。堪えきれない心でまた消えてしまいそうなのも、咎めないでください。人目を忍んで絞った手も力が抜け、今日はあらわになる袖の涙のしずくを〔見てください〕。
などと、たいそう馴れ馴れしい様子である。〔大臣は〕ほほ笑んで、
「〔夕霧は〕筆跡をたいそう見事に書き慣れたものだな」
などとおっしゃるのも、昔〔の厳しさ〕の名残はない。
お返事は、なかなかできそうにないので、「見苦しいことだ」と言って、〔雲居雁が〕そう遠慮するのももっともなことなので、〔雲居雁は父のもとへ〕お渡りになった。
使者への禄は、並々でない様子でお与えになった。中将〔夕霧〕は、興趣ある様子でもてなしていらっしゃる。いつも身を隠してこそこそしていた使者が、今日は、顔つきなども、人並みに堂々と振る舞っているようである。右近将監という人を、〔夕霧は〕親しく思ってお使いになるのだった。
六条の大臣〔源氏〕も、このことをお聞きになっていた。宰相〔柏木〕が、常よりも輝きを増して参上したので、〔源氏は〕じっと見つめて、
「今朝はどうだったか。手紙などはあったか。賢い人でも、女のことで乱れる例があるのに、体裁悪く関わり合い、心を煩わせずに過ごしてきたのは、少し人より抜きんでたお心だと思われた。
大臣〔内大臣〕の躾があまりに厳しくて、すっかり萎縮してしまったのを、世間の人も言い出すことがあるだろうか。それでも、自分の方が勝ち誇った顔をして、心おごりして、好色な気持ちなどを漏らしてはならない。
あれほどおおらかで、大きな心構えと見えるけれど、内心の気性は男らしくなく癖があって、人には見せにくいところをお持ちの人なのだ」
などと、いつものようにお教え申し上げる。〔両者の〕関係がうまく合って、程よい間柄だと〔源氏は〕お思いになる。
親子とも見えず、少し年長なだけのように〔源氏は〕見える。離れて見ると同じ顔を写し取ったように見えるのに、おそばでは、それぞれに、ああ素晴らしいと見えるのだった。
大臣〔源氏〕は、薄い直衣に、白い御衣の唐風なのが、紋が鮮やかに艶々と透けて見えるのをお召しになって、なお尽きることなく上品で優美でいらっしゃる。
宰相殿〔柏木〕は、少し色の濃い直衣に、丁子染めで焦げるほど濃く染めた、白い綾の柔らかいのをお召しなのが、ひときわ目立って艶やかに見える。
灌仏〔の仏像〕を率いて差し上げて、導師が遅く参ったので、日が暮れて、方々から童女を出し、布施なども、宮中の様式と変わらず、思い思いになさった。御前の作法を移して、君達なども参り集まって、かえって、厳粛な御前よりも、妙に気づかいされて臆しがちである。
宰相は、落ち着きなく、ますます化粧し、身を整えて出ていらっしゃるのを、わざとではないが、情け深く振る舞っていらっしゃる若い人々の中には、恨めしく思う者もあった。年ごろの積もりに加えて、思うような仲であるようなので、水も漏らすだろうか〔いや、漏らさないほど親密である〕。
主人の大臣〔内大臣〕は、ますます増す〔柏木との〕親しさを、愛しいものに思い、たいそう大切にお世話申し上げる。負けた方〔柏木〕の口惜しさはなおお思いだろうが、罪も残らないようにと、真面目な心根などで、長年変わらぬ心で過ごしてきたことなどを、ありがたく思いお許しになる。
女御〔弘徽殿女御〕のご様子などよりも、華やかで素晴らしくあってほしいので、北の方やお仕えする人々などは、面白からず思い言う者もあるけれど、何の苦しいことがあろうか。按察使の北の方なども、このような方面で、うれしいと思い申し上げていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。