ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第33帖 藤裏葉 / 第7場面

雲居雁の参内と尼君の添い参り

あらすじ・人物・読み方

雲居雁の参内には、北の方ではなく祖母の尼君が後見として添うことが決まる。輦車を許されるほどの格式で参内し、帝の深い寵愛を受けた姿を見て、内大臣も源氏もそれぞれ本意を遂げたと安堵する。

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現代語で読む

こうして、〔雲居雁の〕参内には〔内大臣の〕北の方がお添いになるはずのところを、「いつも長くお側に添ってお仕えすることはできまい。この機会に、あの後見〔尼君〕を添えて差し上げようか」と〔源氏は〕お考えになる。

帝も、「いずれはあるべきこと〔参内〕が、このように隔たったまま時が過ぎるのを、あの人〔尼君〕も、辛いことと思い嘆いているだろう。〔雲居雁の〕お心にも、今では次第に〔祖母が〕気がかりで、いたわしく思われているだろう。どちらに対しても心を置かれてしまうのも、気の毒なことだ」とお考えになり、

「この機会に〔尼君を〕お添えなさい。まだとてもか弱い年頃で気がかりなうえ、お仕えする人といっても、若い者ばかりが多い。乳母たちなども、目が届き心が至ることには限りがあるので、〔尼君〕ご自身が、長くはお仕えできなくとも、〔いる間は〕後ろ安く感じられるだろう」

と〔源氏が帝に〕申し上げなさると、「たいそうよい思いつきだ」と〔帝が〕お思いになり、「そのように」と、あちら〔内大臣方〕にも話し合いのご連絡をなさったので、〔尼君は〕たいそう嬉しく、願いが叶った心地がして、人の装束や何やかやのことも、高貴な方のご様子に劣らないよう準備を急ぐ。

尼君は、やはりこの〔雲居雁の〕将来の成長を見届け申し上げたいという思いが深かったのである。「もう一度お目にかかれる世があるだろうか」と、命をさえ執念深く保って念じてきたのに、「どうして〔この機会を〕」と思うにつけても悲しい。

その夜、〔尼君は帝の〕お側に添って参内なさるが、車への乗り降りや歩行など、見苦しく思われるだろうことを、自分のためには憚らず、ただ、このように磨き上げられた玉〔雲居雁〕の疵となって、自分がこうして長らえていることが、ひたすら心苦しく思われる。

参内の儀式は、「人の目を驚かせるほどのことはすまい」と慎みなさったが、自然と世間並みの様子ではなかった。限りなく大切にお据え申し上げなさって、帝は、「本当にいとしく美しい」とお思い申し上げになるにつけても、人に譲るまいと、「本当にこのようなこともあればよかったのに」とお思いになる。内大臣も、宰相の君〔柏木〕も、ただこのこと一つを、「飽き足りないことだ」とお思いだった。

三日過ぎて、〔尼君は〕帝〔のお許し〕により退出なさる。入れ替わりに〔北の方が〕参内なさる夜、〔帝との〕ご対面がある。

「このように大人らしくなられた様子から、年月のほども知られますので、よそよそしい隔ては、残らないでしょう」

と、親しみを込めておっしゃって、お話などをなさる。これも打ち解けた関係の始まりのようである。何やら言葉を交わした様子など、「なるほどもっともだ」と、〔尼君は〕目覚ましい思いでご覧になる。

また、とても気高く盛りのご様子を、互いに立派だと見て、「多くの御方々の中でも優れたご寵愛を受け、並ぶ者なき地位にお定まりになったのも、まったくもっともなことだ」と思い知られるにつけ、「これほどまでに、肩を並べ申し上げるご縁は、浅いものだろうか」と思う一方で、退出なさる儀式が、とても格別に立派で、輦車などもお許しになり、女御のご様子と異ならないのを、思い比べると、さすがの身のほどである。

とても愛らしく、雛のようなご様子を、夢のような心地で拝見するにつけても、涙ばかりが止まらないのは、〔悲しみも喜びも〕一つではないように見えた。長年あらゆることに嘆き沈み、さまざまに辛い身の上と思い屈してきた命も、延ばしたいほどに、晴れ晴れしい様子につけて、本当に住吉の神〔の加護〕も並々でないと思い知られる。

思いどおりに大切にされ申し上げ、心の及ばないことはほとんどない人の行き届いた世話ぶりなので、大方の取り扱いやご寵愛をはじめ、並々でないご様子と容貌であるうえに、帝も、若いお気持ちで、とても格別にお思い申し上げになっていた。

競い合う御方々のお仕えの人などは、この母君〔尼君〕が、このようにお仕えしているのを、疵として言いなしたりするが、それで〔雲居雁の光が〕消されるはずもない。今風に華やかで、並ぶ者なきことは言うまでもなく、奥ゆかしく趣のあるご様子を、些細なことにつけても、理想的に取り扱い申し上げになるので、殿上人なども、珍しい競い合いの場として、それぞれお仕えする人々も、心をかけた女房の、用意や様子まで、見事に整えなさっていた。

帝も、適当な折々には〔雲居雁のもとへ〕おいでになる。ご夫婦仲は理想的に打ち解けていくが、そうかといって差し出がましく馴れ馴れしくもなく、軽んじられるような振る舞いはまったくなく、不思議なほど理想的な人のご様子とお心ばえである。

内大臣も、「長くないばかり思われる御代のこちらで」と、お思いだった参内を、甲斐のある様子に拝見し終えなさって、〔源氏も〕心からではあるが、世に落ち着かないようで、見苦しかった宰相の君〔柏木〕も、思い悩みなく安らかな様子に落ち着きなさったので、お心がすっかり落ち着き果てなさって、「今は本意も遂げられるだろう」とお思いになる。

対の上〔紫の上〕のご様子が、見捨てがたいにつけても、「中宮がいらっしゃるので、並々でないお心寄せがある。この御方〔雲居雁〕にも、世に知られた親としての立場では、まずお思い申し上げになるだろうから、それでも〔大丈夫だろう〕」と、〔源氏は〕お譲りになっていた。

夏の御方が、時節に華やぎなさるはずがないことも、「宰相〔柏木〕がいらっしゃるので」と、皆それぞれ気がかりでなくお思いになっていく。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。