ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第33帖 藤裏葉 / 第8場面

准太上天皇の位と雲居雁への菊の歌

あらすじ・人物・読み方

翌年四十になる源氏の賀の準備が朝廷を挙げて始まり、その秋、源氏は太上天皇に准ずる位を得て、柏木は中納言に進む。源氏は、大輔の乳母が「六位宿世」とつぶやいた宵を思い出し、色の移った菊に歌を添えて雲居雁に贈り、雲居雁が返歌する。

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現代語で読む

翌年〔源氏が〕四十歳におなりになる、その御賀のことを、朝廷から〔準備を〕始め申し上げて、世を挙げての大きな支度である。

その秋、〔源氏は〕太上天皇に准ずる御位をお得になって、御封〔戸〕が加わり、年官・年爵などが皆お添えになる。こうでなくても、世の中で〔源氏の〕御心に叶わないことはないのだけれど、なお珍しかった昔の先例を改めないで、院司などが置かれ、様子が格別に重々しくお加わりになるので、内裏に参内なさることが難しくなるだろうことを、一方ではお思いになるのだった。

こうしても、なお〔物足りなく〕帝はお思いになって、世間をはばかって、〔源氏に〕位をお譲り申し上げることができないことを、朝夕の嘆きの種になさっていたのだった。

内大臣が〔太政大臣に〕上がりなさって、宰相中将〔柏木は〕中納言におなりになった。〔柏木は〕御祝いに〔源氏の邸へ〕お出かけになる。光がますますお加わりになる御様子は、お顔立ちをはじめ、見飽きることがないのを、主人の大臣〔内大臣〕も、「かえって人に圧倒されそうな宮仕えよりは〔よい〕」と、思い直す。

女君〔雲居雁〕の大輔の乳母が、「六位がお似合いの宿世」と、つぶやいた宵のことを、〔源氏は〕折々に思い出しなさるので、菊がたいそう美しく、色が移り変わっているのを〔雲居雁に〕お与えになって、浅緑の若葉の菊が、露に濡れたくらいで濃い紫の色に変わるなどと、〔昔、思えたでしょうか〕。〔あの〕つらかった折のひと言こそ忘れられません〔との添え書きがあった〕。と〔言って〕、たいそう優美にほほ笑んで〔雲居雁に〕お渡しになった。〔雲居雁は〕恥ずかしく、気の毒に思われながらも、〔源氏を〕美しくお見上げ申し上げる。

双葉のころから名高い園の菊ですから、浅い色に分ける露などありませんでした。どれほど〔私の心を〕お騒がせになったことでしょう〔との添え書きがあった〕。と〔返して〕、たいそう打ち解けた様子で苦しそうにする。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。