第33帖 藤裏葉 / 第9場面
三条殿への移徙と老木の歌
あらすじ・人物・読み方
夕霧と雲居雁は三条殿に移り住み、庭や遣水を整えて昔を懐かしみ、真清水を詠み交わす。源氏が訪れて老木の歌を詠み、宰相の乳母も双葉の松の歌を添えた。
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現代語で読む
〔夕霧の〕ご威勢が増して、この住まいも手狭になったので、三条殿にお移りになった。少し荒れていたのを、たいそう立派に修理し直して、〔大宮が〕お住まいだった方を改めて整えてお住まいになる。昔を思い出させて、しみじみと思われるようなお住まいである。
庭の植え込みなども、小さな木々だったものも、たいそう茂った木陰となり、一群の薄も思いどおりに乱れ茂っていたのを、〔夕霧が〕手入れさせなさる。遣水の水草も掻き改めて、たいそう満足のいく様子である。
趣のある夕暮れどきに、お二人が眺めていらして、あきれた〔昔の〕世の、ご幼少のころの話などなさると、恋しく思うことも多く、人が〔どう〕思っただろうことも恥ずかしく、女君〔雲居雁〕は思い出される。古くからの女房たちが、退出して散らず、それぞれの部屋に控えていたことなど、〔皆が〕参上して集まって、たいそう嬉しいと思い合っている。
男君〔夕霧〕は、あなたこそ、岩のようにこの家を守る主人です。かつてここに住んだ人の行方を、この宿の真清水は知っているでしょうか。
女君〔雲居雁〕は、亡き人の姿すら見えず、真清水は冷淡で、心を慰めるのは小さな井戸の水だけです。
などとお詠みになるうちに、大臣〔源氏〕が、内裏から退出なさったのを、紅葉の色に驚かされて〔三条殿へ〕お渡りになった。
昔〔大宮が〕いらしたご様子にも、ほとんど変わることなく、あたり一帯が落ち着いてお住まいになっている様子が、華やかであるのを〔源氏が〕ご覧になるにつけても、たいそうしみじみと思われる。中納言〔夕霧〕も、特別な様子で、顔が少し赤らんで、ますます静まり返っていらっしゃる。
理想的で美しいお二人の間柄だが、女君は、またこのような容貌の人も、どうして〔世に〕ないだろうかと見えた。男君は、限りなく清らかでいらっしゃる。古くからの女房たちは御前に場所を得て、昔ながらの神々しい話などを申し上げる。以前の〔大宮の〕お手習いなどが、散っているのを〔源氏が〕目に留められて、しんみりと涙ぐまれる。
「この水の心を尋ねたいけれど、年寄りは言忌みをして〔尋ねない〕」とおっしゃる。
昔の老木はむべなるかな朽ちてしまっただろう。植えた小松にも苔が生えていることだ。
男君の宰相の乳母は、〔昔〕つらかったお心も忘れられないので、得意顔に、どちらをも蔭と頼りにします。双葉のころから根を交わせてきた松の末々ですから。
老人たちも、このような筋の歌を詠み集めたのを、中納言〔夕霧〕は、面白いと思われる。女君は、わけもなく顔を赤らめ、苦しいこととしてお聞きになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第33冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。