第34帖 若菜上 / 第11場面
紫の上の苦悩と雪の朝
あらすじ・人物・読み方
紫の上は女三の宮の降嫁に平静を装うが、女房たちの噂や他の御方々の探りに心を乱し、源氏のいない夜を須磨の別れを思い出して眠れずに過ごす。明け方、夢に心騒いだ女三の宮が雪の庭を渡って源氏を訪ね、二人で過ごす様子に、紫の上は思いやりのない源氏の心を苦しく思う。
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現代語で読む
あれほどつれない素振りで紛らわしていらっしゃるけれど、お仕えする女房たちも、
「思いがけない世の中だこと。多くの方がいらっしゃるようだけれど、どの方も皆、こちらのお方のご様子には肩を並べられず遠慮するようにして過ごしていらっしゃるからこそ、何事もなく穏やかでいられたものを、押し立ってこれほど大げさな有様では、消え入るようにしても過ごせはしないでしょう」
「また、そうは言っても、ちょっとしたことにつけても、心穏やかでないことがある折々には、きっと煩わしいことが出てくるでしょう」
などと、それぞれ語り合って嘆かわしそうにしているのを、少しも気づかないように、たいそう様子を面白くお話などをなさりながら、夜が更けるまでいらっしゃる。
このように人々が並々でなく言い思っているのも、聞きづらいとお思いになって、
「このように、あれこれ多くの方がいらっしゃるようだけれど、お心にかなって今風に優れた身分の方でもないと、見慣れて物足りなく思っていらしたところに、この宮がこのようにお越しになったのは、まずは安心なことです。
やはり、子供心が抜けないためでしょうか、私も親しくお付き合い申し上げたいのに、わけもなく隔てのある様子にと人々が取りなそうとするのでしょうか。同等のほどで、劣っているなどと思う人にこそ、並々でなく耳立つことも自然と出てくるものですが、恐れ多く、心苦しいお方のことですので、どうして気兼ね申し上げることがありましょうか、と思います」
などとおっしゃると、中務や中将の君などのような人々は、目配せをしながら、
「あまりにもご配慮が過ぎますこと」
などと言うようである。昔は、並々でない様子でお使い慣れになっていた人々だけれど、近年はこのお方にお仕えして、皆が心を寄せ申し上げているようである。
他の御方々からも、
「どのようにお思いでしょうか。もともと思い離れている人々は、かえって気楽なものを」
などと、それとなくほのめかしながら、お見舞い申し上げなさる方もあるのを、
「このように推し量る人こそ、かえって苦しいことです。世の中もたいそう無常なものを、どうしてそれほどまでに思い悩んだりしましょう」
などとお思いになる。
あまり長く起きているのも、例になく人が咎めるだろうかと、心の鬼にお思いになって、お入りになると、お夜着が差し上げられても、なるほど傍らが寂しい夜を毎夜過ごしてきたのも、やはり並々でない心地がするけれど、あの須磨のお別れの折などを思い出しなさると、
「今はもうと、遠く離れていらっしゃっても、ただ同じ世の中でお噂を聞き申し上げられたらと、自分のことなどはさておき、惜しく悲しかった有様でした。それに、その紛れに、私もあの方も命が保てなくなっていたら、言い甲斐のある世だったでしょうか」
と思い直しなさる。
風が吹く夜の気配が冷やかで、ふと寝入ることもおできにならないのを、近くにお仕えする人々が、不思議に聞くのではないかと、身動きもなさらないのも、やはりとても苦しそうである。夜深く鶏の声が聞こえるのも、しみじみと感じられる。
わざとつらいからではないけれど、このように思い乱れていらっしゃるためか、あの方が夢にお現れになったので、はっと目覚めなさって、どうしたことかと心騒がせていらっしゃると、鶏の声を待ちかねてお出になったので、まだ夜が深いとも知らない顔で、急いで出ていらっしゃる。たいそうあどけないご様子なので、乳母たちが近くにお仕えしていた。
妻戸を押し開けて出ていらっしゃるのを、お見送り申し上げる。明け方の薄暗い空に、雪の光が見えてはっきりしない。名残まで留まっているお香の匂いに、
「闇はわけがわからない」
と独り言をおっしゃる。
雪は所々消え残っているのが、たいそう白い庭で、ふと区別が見分けられないほどであるところに、
「なお残っている雪」
と静かに口ずさみなさりながら、格子を叩きなさるのも、久しくこのようなことがなかった習慣で、人々も空寝をしながら、しばらくお待たせ申し上げてから、引き上げた。
「ずいぶん久しかったので、体も冷えてしまったでしょう。恐れ申し上げるお気持ちが並々でないからなのでしょう。それにしても、罪なことですね」
と言って、お召し物を引き寄せなどなさると、少し濡れた単衣の袖を引き隠して、隔てなく懐かしい方でありながら、打ち解けてはいないご様子などが、たいそう恥ずかしそうで趣がある。
「限りなく大切な人と聞くけれど、難しい世の中を」
と、思い比べなさる。
万事昔のことを思い出しなさりながら、打ち解けにくいご様子を恨み申し上げなさって、その日をお暮らしになったので、お渡りになることができず、寝殿へはお便りを申し上げなさる。
「今朝の雪で気分を害して、たいそう苦しんでおりますので、心安い方に留まっております」
とある。乳母は、
「そのように申し上げてございます」
とだけ、言葉で申し上げた。
「何とも素っ気ないお返事だ」とお思いになる。「院がお聞きになるのも気の毒だ。せめてこの頃だけでも取り繕おう」とお思いになっても、そうもできないので、「やはり思っていた通りだ。ああ苦しい」と、ご自身で思い続けていらっしゃる。
女君も、「思いやりのないお心だこと」と、苦しがっていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。