第34帖 若菜上 / 第12場面
源氏と女三の宮の贈答
あらすじ・人物・読み方
源氏は雪の朝、女三の宮へ梅に添えた文を贈り、返歌の幼い筆に宮のあどけなさを改めて思う。昼に宮のもとを訪れ、その無心で愛らしい様子に憎からず心惹かれながらも、長年連れ添った紫の上への変わらぬ思いの深さをしみじみと感じる。
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現代語で読む
今朝は、いつものように大殿にお泊まりになって起きなさって、宮のお方へお手紙を差し上げなさる。特に恥ずかしそうなご様子でもないけれど、筆などを整えて、白い紙に、
中道を隔てるほどの距離ではないけれど、今朝の淡雪のように心が乱れることです
梅の枝に付けて差し上げなさった。人をお呼びになって、
「西の渡殿から差し上げよ」
とおっしゃる。すぐに見送って、端近くにいらっしゃる。白いお召し物を着ていらして、花を手で探りながら、「友待つ雪」がほのかに残っている上に、散り添う空を眺めていらっしゃった。鴬が若々しく、近くの紅梅の梢で鳴いたのを、
「袖こそ匂え」
と花を引き隠して、御簾を押し上げて眺めていらっしゃる様子は、夢にも、このような方の親で、重い位にあるとは見えなさらず、若く艶やかなご様子である。
お返事が、少し時間が経つ心地がするので、お入りになって、女君に花をお見せ申し上げなさる。
「花というなら、このように匂ってほしいものですな。桜に移しては、また塵ほども心を分ける方もなくなるでしょう」
などとおっしゃる。
「これも、あまり色あせない間は、目に留まるのでしょう。花の盛りに並べて見たいものです」
などとおっしゃると、お返事がある。紅の薄様に、鮮やかに押し包まれているのを、胸が潰れる思いで、お手跡がたいそう若いのを、
「しばらくお見せ申し上げずにいたいものだ。隔てがあるわけではないけれど、軽々しいようであるのは、あの方の身分に対して恐れ多い」
とお思いになると、引き隠しなさるのも気が引けなさるようなので、傍らに広げていらっしゃるのを、横目で見送って傍らに添い臥していらっしゃった。
はかなくて上の空で消えてしまいそうな、風にただよう春の淡雪のようにはかない私です
お手跡は、本当にたいそう若く幼げである。「あれほどの年齢になった人は、決してこのようにはいらっしゃらないのに」と、目に留まるけれど、見ないように紛らわして、お止めになった。
他の方のことであれば、「その通りでしょう」などとは、忍んで申し上げなさるだろうけれど、気の毒で、ただ、
「安心なさるように、お思いになってください」
とだけ申し上げなさる。
今日は、宮のお方へ昼にお渡りになる。特に心を込めて化粧じていらっしゃるご様子を、今ご覧になる女房などは、なおさら見る甲斐があると思い申し上げるだろう。乳母などのような老いた人々こそ、
「まあ。このご様子がお一所にいらっしゃるのはめでたいけれど、目障りなこともあるでしょう」
と、入り混じって思う者もあった。
女宮は、たいそう可愛らしく幼い様子で、お部屋のしつらえなどが仰々しく、立派で美しいところに、ご自身は何の心もなく、はかないご様子で、たいそうお召し物ばかりが目立ち、体もなく、儚げである。特に恥ずかしがりなどもなさらず、ただ幼児が顔を嫌がらない心地がして、気安く美しい様子でいらっしゃった。
「院の帝は、雄々しくまっすぐな方のご才能などこそ頼りなくていらっしゃると、世の人々は思っているようだけれど、風流な筋や、艶やかで由緒ある方は、人より優れていらっしゃるのに、どうして、このように素直にお育てになったのだろう。それなのに、たいそうお心を留めていらっしゃる皇女と聞いていたのに」
と思うのも、少し残念だけれど、憎からずご覧申し上げていらっしゃる。
ただ申し上げなさるままに、弱々しく靡いていらして、お返事なども、覚えていらっしゃることは、あどけなく口に出していらして、目を離せずご覧になる。
昔の心であったなら、情けなく心が劣ったように思っただろうに、今は、世の中を皆さまざまに思い慣らして、
「あれもこれも、際立って離れることは難しいものだった。それぞれに多くはあるけれど、他人の思いは、たいそう理想的なほどであるなあ」
とお思いになると、並んで目を離さずご覧申し上げてきた年月よりも、対の上のご様子がやはり有難く、「我ながら育て上げたものだ」とお思いになる。一夜の間も、朝の間も、恋しくはっきりせず、ますますお気持ちが募るのを、「どうしてこのように思われるのだろう」と、不吉なほどである。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。