第34帖 若菜上 / 第13場面
朱雀院の消息と返事
あらすじ・人物・読み方
出家した朱雀院は女三の宮の後見を源氏と紫の上に託し、紫の上は返歌で応える。源氏は旧恋の前斎院尚侍の君への思いを断ち難く、和泉守を介して忍びの対面を願い、紫の上には常陸の君の見舞いと偽って出かける支度をする。
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現代語で読む
朱雀院は、その月のうちにお寺へお移りになった。この六条院へ、しみじみとしたお手紙をたびたびお寄せになる。女三の宮のごことは言うまでもない。
煩わしいほどに、世間がどう聞くかなどお憚りになることもなく、とにかく、ただお心にかけてお世話してほしいと、たびたびおっしゃっていた。しかし、しみじみと気がかりで、まだ幼くいらっしゃることを案じ申し上げていらした。
紫の上にも、特別にお手紙があった。
「幼い人が、不安な様子で移ってくるだろうのを、悪気はないとお許しになって、お世話してください。お尋ねになるべき事情もあるでしょうから、と。
出家して背いたこの世に残る未練の心こそ、山奥へ入る修行の妨げになるのだなあ
心の闇を晴らすことができずにこんなことを申し上げるのも、おこがましいことでしょうか」
と書いてあった。源氏の大殿もご覧になって、
「しみじみとしたお手紙をいただきました。謹んで承りましたと申し上げてください」
と言って、使いの者にも女房を通じて土器の酒を出させ、無理に勧めさせなさる。「お返事はどうなさいますか」などと申し上げにくいと思われたが、大げさに風流を詠むべき折のことではないので、ただ真心を述べて、
出家なさった世が気がかりなら、断ちがたい絆を無理に結んで、離れないでください
といったような歌であったようだ。
女の装束に細長を添えて、使いへの褒美として与えなさる。お手跡などがたいそう見事なのを、朱雀院はご覧になって、何事もたいそう立派で気後れしそうな方々のそばで、幼く見えていらっしゃるだろうことが、たいそう気の毒にお思いになっていた。
これが最後と、女御や更衣たちが、それぞれお別れなさるのも、しみじみと悲しいことが多かった。
尚侍の君は、亡き后の宮がいらした二条の宮にお住まいである。姫宮のごことのほかに、この方のお世話をとりわけ気にかけ、帝もお思いになっていた。尼になろうとお思になったが、
「このような勢いの盛んな折には、慕うように心が慌ただしくなります」
と帝がお諌めになって、徐々に仏事などの準備を急がせなさる。
六条の大殿は、しみじみと飽きることなく思い続けて終わったご関係の相手であるので、長年忘れがたく思って、
「いつ対面できるだろう。もう一度お会いして、あの頃のこともお話し申し上げたい」とばかり思い続けてきたが、互いに世間の噂をはばかるべき身の上であり、気の毒だった世間の騒ぎなども思い出されるので、何かと慎んで過ごしてきたが、このように穏やかにおなりになって、世の中を静かに思っていらっしゃるだろうこの頃のお姿が、ますます見たくて気がかりなので、あってはならないこととは思いながらも、ご機嫌伺いにことよせて、しみじみとした様子でいつもお便り申し上げる。
若々しい間柄ではないので、お返事も折々に交わし合っていらっしゃる。昔よりも格別に落ち着いて、すっかり整ったご様子をご覧になるにつけても、なお堪えがたくて、昔の中納言の君のもとにも、心のこもったことをいつもおっしゃる。
その人の兄である和泉の前守を呼び寄せて、若々しく、昔に戻ったように語り合いなさる。
「人伝てではなく、物を隔ててお話し申し上げたいことがある。うまく言いなだめて承知させ、ひそかに参上しよう。
今は、そのような出歩きも窮屈な身の上だが、並々ならず慎むので、そちらでもまた人には漏らすまいと思うと、互いに気が安いのだ」
とおっしゃる。尚侍の君は、
「とんでもない。世の中を思い知るにつけても、昔からつらいお心を、長年思い詰めてきた果てに、しみじみと悲しいご事情をさし置いて、どんな昔語りを申し上げられましょう。
本当に、人が漏れ聞かないことがあっても、自分の心が問うことこそ、たいそう恥ずかしいでしょう」
と嘆きなさりながら、やはり、決してあってはならないという旨だけを申し上げる。
「昔、どうにもならなかった頃でさえ、心を通わせなさらなかったわけでもなかったのに。本当に、出家なさったあなたのために気がかりなようではあるが、なかったことでもないのだから、今になってはっきりと清く身を引いて、立ってしまった私の評判を、今さら取り返そうとなさるのでしょうか」
と思い起こして、この信太の森を道しるべとして参上なさる。女君には、
「東の院にいる常陸の君が、近ごろ患って長くなっているのを、騒がしい紛れに見舞わなかったので、気の毒でね。昼など、表立って行くのも都合が悪いので、夜の間にひそかにと思っているのです。人にもそうとは知らせるな」
と申し上げなさって、たいそう熱心に気を配っていらっしゃるのを、普段はそれほどお見えにならない方面なのを、不思議だとご覧になって、思い当たることもあるけれど、姫宮のご入内の後は、何事もたいそう過ぎた昔のようではなく、少し隔てる心が加わって、知らないふりをしていらっしゃる。
その日は、寝殿へもお渡りにならず、手紙を書き交わしていらっしゃる。薫き物などに心を込めて一日をお過ごしになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。