ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第34帖 若菜上 / 第15場面

淑景舎の対面と手習の歌

あらすじ・人物・読み方

桐壺の女御が病で退出し、女三の宮は東面に住む。紫の上は淑景舎で宮と対面し、源氏は紫の上の手習の歌を見つけて歌を書き添える。やがて紫の上と明石の姫君は中の戸を開けて宮と親しく語らい、人々の疑いも和らぐ。

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宮のお側へも、すぐにはお渡りになることができず、なだめ申し上げながら過ごしておられる。姫宮は何ともお思いにならないのを、お世話役たちは気がかりだと申し上げていた。煩わしそうなご様子が見えれば、あちらもいっそう心苦しいはずなのに、おっとりと可愛らしく、遊び相手のようにお慕い申し上げている。

桐壺の女御は、そのまま退出することがおできにならない。暇をいただくのが難しいので、気楽に過ごし慣れた若いお心には、たいそう苦しくばかりお思いになっている。

夏ごろ、ご病気で苦しんでおられるのに、すぐには退出をお許し申し上げられないので、たいそうつらいとお思いになる。珍しいご容態でいらっしゃった。まだたいそうか弱いご年齢なので、たいそう不吉なことと、誰も彼もお思いになるだろう。ようやく退出なさった。

姫宮のお住まいの御殿の東面に、女御のお部屋が設えられた。明石の君が今はお側に付き添って出入りなさるのも、理想的なご宿世であることよ。

紫の上は、こちらにお渡りになって対面なさるついでに、

「姫宮にも、中の戸を開けてお話し申し上げましょう。前々からそうしたいと思っておりましたが、機会がないと遠慮されるので、こういう折にお話しして慣れれば、気安くなるはずです」

と源氏に申し上げると、微笑んで、

「思いのままになるお付き合いになることでしょう。たいそう幼いご様子でいらっしゃるようなので、安心できるように教えて育ててあげてください」

と、お許し申し上げる。宮よりも、明石の君が立派で気後れして交わるだろうとお思いになると、髪を清めて整えておられるのが、比べようもないほど美しく見えた。

源氏は、宮のお部屋にお渡りになって、

「夕方、あの対にいる人が、淑景舎へ対面しようと出かけます。そのついでに、近づいてお話し申し上げたがっているようなので、許してお話しなさってください。人柄などはたいそう良い人です。まだ若々しくて、お遊び相手としてもふさわしくないことはありません」

などと、申し上げる。

「恥ずかしいことでしょう。何をお話し申し上げればよいのでしょう」

と、おっとりとおっしゃる。

「人の受け答えは、相手に応じて思い出せるでしょう。隔てを置いておもてなしなさるな」

と、細かに教えて申し上げる。「お仲睦まじく過ごしなさるように」とお思いになる。

あまりに無心なご様子を見せられるのも、恥ずかしくつまらないけれど、そうおっしゃるのを、「心に隔てをするのもよくない」と、お思いになるのだった。

対では、このようにお出かけの支度などをなさりながらも、

「私より上の人がいるはずがあろうか。身の程に合ったはかない様子を、あらかじめ見せておいただけのはずだ」

などと思い続けて、物思いにふけっておられる。手習いなどをするにも、自然と古歌も、物思いに沈む内容ばかりが書かれるのを、「それなら、私自身には思い悩むことがあったのだ」と、ご自身ながらお気づきになる。

源氏がお渡りになって、宮や女御の君などのご様子を、「可愛らしくていらっしゃること」と、さまざまに拝見なさるその目には、長年見慣れておられる人が、並大抵であれば、これほど目を見張るはずもないのに、「やはり、比べようもない美しさだ」とご覧になる。得難いことであるよ。

理想的なまでに、気高く奥ゆかしく整っている上に、華やかで今風で、香りも優雅なさまざまの香を集めたようで、素晴らしい盛りの美しさに見える。去年より今年は優り、昨日より今日は珍しく、常に見慣れないご様子でいらっしゃるのを、「どうしてこれほどでいられるのだろう」とお思いになる。

くつろいで書いていた手習いを、硯の下に差し入れてお隠しになったけれど、源氏が見つけて、引き返してご覧になる。筆跡などは、たいそう技巧的に上手とは見えず、たおやかで可愛らしくお書きになっている。

身近に秋が来たのだろうか。見る間に、青葉の山も色づいてしまったことだ。

とある所に、目をお留めになって、

水鳥の青い羽は色も変わらないのに、萩の下葉こそ様子が変わっている。

などと書き添えて、戯れにお書きになる。何かにつけて、心苦しいご様子が、心の底から自然に漏れて見えるのを、何事もなく消しておられるのも、得難くしみじみとお思いになる。

今夜は、どちらにもお暇があるはずなので、あの忍び所へ、たいそうやむを得ず、お出かけになってしまった。「たいそうあってはならないこと」と、ひどく思い返しても、どうにもならなかった。

春宮の女御は、実の母君よりも、このお方を親しいものとしてお頼り申し上げている。たいそう可愛らしく大人びて優れておられるのを、隔てなく、いとしいと拝見なさる。

お話などを、たいそう親しく交わし合って、中の戸を開けて、宮とも対面なさった。

たいそう幼くばかり見えるので、気安くて、大人らしく親しげな様子で、昔のご血筋のこともお尋ね申し上げる。中納言の乳母という人をお呼び出して、

「同じ挿頭の縁を尋ね申し上げますと、恐れ多いことですが、よそよそしく申し上げておりましたが、機会がなく過ごしておりましたのを、今からは疎遠でなく、あちらなどにもお出かけになって、怠るようなことがあれば、お知らせなどもなさるのが、嬉しいことです」

などとおっしゃると、

「頼もしいお方々に、さまざまに後れをとってお仕え申し上げて、心細そうにいらっしゃるようなのに、このようなお許しがあるようですから、比べようもなく有り難く思われます。お亡くなりになったお上のご意向も、ただこのようにお心に隔てなく、まだ幼いご様子をも、お育て申し上げるようにとのことでした。内々でも、そのようにお頼み申し上げていたのです」

などと申し上げる。

「たいそう恐れ多かったご消息の後は、どうにかしたいとばかり思っておりましたが、何事につけても、取るに足らない身の上が残念でした」

と、穏やかで大人びた様子で、宮にも、お心に沿うように、絵などのことや、お人形遊びの捨てがたい様子を、若々しく申し上げると、「本当に、たいそう若くて心の良い人だな」と、幼いお心では打ち解けておられる。

その後は、常にお手紙のやり取りなどをして、面白い遊びなどについても、疎遠でなく交わし合っておられる。世間の人も、とかく、これほどになった辺りのことは、言い取り沙汰するものなので、初めの頃は、

「紫の上は、どうお思いだろうか。ご寵愛は、たいそう近年のようではあるまい。少しは衰えるだろう」

などと言っていたが、今は少し深いご寵愛が、このようにいっそう優る様子なのを、それについても、また穏やかでなく言う人々があるのに、このように憎らしくなくまで交わし合っておられるので、評判も改まって、見ていて安心な状態であった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。