ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第34帖 若菜上 / 第17場面

賀の当日

あらすじ・人物・読み方

秋好中宮は源氏の四十の賀を表向きは控えながらも、奈良七大寺や都の四十寺への布施で心を表す。当日、六条院の丑寅の町では太政大臣らを招いて饗宴が開かれ、新任の大将の任命も加わって管弦の遊びと贈り物が華やかに続いた。

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現代語で読む

師走の二十日過ぎのころ、中宮はお出ましになって、今年の残りのご祈願のために、奈良の京の七大寺には読経と布四千反を、近くの都の四十寺には絹四百疋を分けて施させなさる。

ありがたいお育てをよくご存じでありながら、何かにつけて深いご厚意をお目にかけたいとお思いになり、父宮や亡き母御息所が源氏のために寄せた心づかいをも添えてお思いになるにつけ、このように強く朝廷からもお止めになるので、多くのことをお控えになった。

「四十の賀ということは、以前の例を聞いておりますと、その後の寿命が長かった例は少なかったのですが、今回は、どうか世間の評判になるようなことはお控えになり、本当に将来のためになることをお数えください」

とあったけれども、表向きの形では、やはりたいそう盛大であった。

中宮がお住まいの町の寝殿にご準備などをして、以前の例と変わらず、上達部への禄などは大饗に準じて用意し、親王たちには特に女の装束を、参議でない四位やまうち君達など、普通の殿上人には白い細長一揃いや腰差まで、次々に下賜なさる。

装束は限りなく美しさを尽くして、名高い帯や御佩刀など、故前東宮の御方から伝わってきたものもあり、また感慨深い。古い時代の第一の名品と名のあるものはすべて集まるお賀のようである。昔物語でも、物を贈られたことを賢いこととして数え続けたようだが、たいそう煩わしく、煩雑なご一族のことは数えきれそうにない。

帝は、お始めになったことを無にしてよいかと、中納言にお任せになった。そのころの右大将が病気で辞任なさったので、この中納言に、お賀の折の喜びを添えようとお思いになって、急に右大将になさった。

院もお喜び申し上げなさるものの、

「このように急に身に余る喜びをいただき、気が早いような心地がいたします」

と中納言は謙遜して申し上げなさる。

六条院の東北の町にご準備をなさって、ひっそりしたようにしておられたけれど、今日はやはり格別に儀式が優れて、所々の饗応なども内蔵寮や穀倉院から仕えさせなさっている。

屯食などは公の形で、頭中将が宣旨をお受けして配り、親王たち五人、左右の大臣、大納言二人、中納言三人、宰相五人、殿上人は、いつものように帝・東宮・院に仕える者で、残る者は少ない。

御座や御調度などは太政大臣が詳しくお受けして仕えさせなさっている。今日はお招きがあって大臣がお越しになった。院もたいそう畏まってお礼を申し上げなさって、大臣は御座にお着きになった。

母屋の御座に向かって大臣の御座がある。たいそう立派に堂々と太って、この大臣こそ今が盛りの宿徳の人と見えなさる。

主人の院は、やはりとても若い源氏の君に見えなさる。四帖の御屏風に帝がお書きになった書を唐の綾の薄い布に貼り、下絵の様子などもおろそかであろうはずがない。趣のある春秋の作り絵などよりも、この御屏風の墨の輝く様子は目も及ばず、想像するだけでも素晴らしくあった。

置物の御厨子や弾き物、吹き物などは蔵人所から下賜なさった。大将のご威勢がたいそう盛大になっていたので、それも加わって今日の作法は格別である。御馬四十疋を、左右の馬寮や六衛府の官人が、上の者から次々に引いて整えるうちに、日がすっかり暮れてしまった。

いつもの「万歳楽」「賀王恩」などの舞を形ばかり舞って、大臣がお越しになったので、珍しく催された管弦のお遊びに、皆が心を入れていらっしゃる。琵琶は例の兵部卿宮が、何事にも世に得がたい名手でいらっしゃって、並ぶ者がない。御前では源氏が琴を弾く。大臣は和琴をお弾きになる。

長年聞き慣れたお耳の聞き方だろうか、たいそう優雅でしみじみと感じられるので、源氏は琴もお手をほとんど隠さず、素晴らしい音色が出る。

昔のお話などが持ち出されて、今はまた、このようなご関係で、どちらにつけてもお付き合いなさるべき親しみなどを快くお話しになって、お酒が何度も出て、楽しさも滞りなく、お酔いの涙も止められない。

お贈り物として優れた和琴一つに、お好みの高麗笛を添えて贈る。紫檀の箱一具に唐の本やここの草の本などを入れて贈る。大臣のお車に追いついて差し上げなさる。御馬どもを迎え取って、右馬寮の者どもが高麗の楽を奏して騒ぐ。六衛府の官人への禄は大将が下賜なさる。

源氏はご自分の考えで削って、盛大なことは今回はお止めになったけれど、帝、東宮、一院、后の宮と、次々にご縁の深さが言い知れず表れたことなので、やはりこのような折には素晴らしく感じられた。

大将がただ一人でいらっしゃるのを、物足りなく栄えがない心地がしたが、多くの人に優れ、評判も格別で、人柄も申し分ないようにしていらっしゃるにつけても、あの母である北の方が、伊勢の御息所と恨み深く争い合ったほどのご宿世の行く末が見えたのは、さまざまに感慨深いことであった。

その日のご装束などは、こちらの上である紫の上がなさった。禄などの大方のことは三条の北の方が準備なさるようだった。折々のお営みや内々の物の美しさをも、こちらではただ他人事として聞くばかりでいらっしゃるのを、何かにつけてこのような重々しい集まりの数にも加わりなさるだろうかと思われたのに、大将の君とのご縁によって、たいそうよく数に入れられていらっしゃった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。