第34帖 若菜上 / 第2場面
婿選びの評定
あらすじ・人物・読み方
朱雀院は夕霧に、女三の宮を安心できる人に預けたい意向を漏らす。女房たちは夕霧の美しさを讃え、院は源氏の比類ない人柄と夕霧の昇進ぶりを語る。乳母たちには源氏のような後見を望みつつ、権中納言が独り身の頃を逃した悔いや、源氏の変わらぬ好色への懸念も口にする。
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現代語で読む
「太政大臣の邸に、今は落ち着かれたそうですね。長年わけの分からない話のように聞いていたのが気の毒でしたが、ほっとしたものの、やはり残念に思うことがあります」
とおっしゃるご様子を、「何をおっしゃろうとするのか」と、不思議に思って考えてみると、「この姫宮をこのようにご心配なさって、ふさわしい人がいたら預けて、安心して世を離れたい、とお思いになっておっしゃるのだろう」と、自然と漏れ聞く伝てもあったので、「そのようなことだろう」とは思ったが、すぐに分かったような顔をして、どうしてお答え申し上げられよう。ただ、
「頼りにもならない私には、妻もなかなか得がたくございます」
とだけお答え申し上げるにとどまった。
女房などは、覗いて拝見して、
「本当に立派にお見えになる容貌と、態度ですこと」
「ああ、素晴らしい」
などと、集まって噂し合っているのを、年輩の女房は、
「さあ、そうは言っても、あの院がこれぐらいのお年でいらっしゃった頃のご様子には、とても比べ申し上げることはできません。実に目も眩むほどお美しくいらっしゃいました」
などと、言い合うのをお聞きになって、
「本当に、あの方は特別な人だった。今はまた、あの頃以上に円熟して、光り輝くとはこういうことかと見える輝きが、一段と加わっている。威儀を正して公の場に立つところを見れば、堂々として鮮やかで、目も及ばない心地がするが、また打ち解けて、冗談を言ってふざけ合うところは、その方面では似る者もなく愛嬌があり、親しみやすく愛らしいことが並ぶ者もないのが、世に稀なところだ。何事につけても前世の果報が推し量られる、類稀な人柄である。
宮中で育って、帝王が限りなくかわいがりなさり、あれほど大事にして身に代えて思っていらしたが、思いどおりだからといって驕ることもなく、謙虚にして、二十歳までは中納言にもならなかった。一つ年を越してか、宰相で大将を兼ねていらしたのだったろう。
それに比べて、こちら〔夕霧〕がこの上なく昇進しているのは、代々の子の代に声望が増していくということなのだろう。本当に優れた方面の才能や心構えなどは、こちらも決して劣ることはなく、年を重ねて円熟したという評判は、たいそう格別なようだ」
などと、お褒めになる。
姫宮がとてもかわいらしげで、若く無邪気なご様子なのを拝見なさるにつけても、
「華やかにお世話し申し上げ、また一方では、至らないところは見ないふりをしてそっと教えてあげられるような、安心できる人に預け申し上げたいものだ」
などとお申し上げになる。
年かさの御乳母たちを御前に召し出して、御裳着の際のことなどを仰せになる折に、
「六条の大殿が、式部卿親王の娘を育て上げたというように、この宮を引き取って育ててくれる人がいないものか。臣下の中では、なかなかいないだろう。内裏には中宮がいらっしゃる。それに次ぐ女御たちにしても、たいそう高貴な方ばかりでいらっしゃるので、しっかりした後見がなくては、そのような宮中での交際は、かえってしない方がよかろう。
この権中納言の朝臣が独り身でいた頃に、こっそり打診してみるべきだった。若いけれど、たいそう有能で、将来も頼もしく見える人なのだから」
とおっしゃる。
「中納言は、もともとたいそう真面目な方で、長年あちらの方に心を懸けて、ほかの女性に心を移そうともなさらなかったので、その思いが叶ってからは、ますます心の揺らぐはずがございません。
あの院こそは、かえって、今でもどのようなことにつけても、女性を慕わしく思うお心は、絶えずお持ちのようでいらっしゃいます。その中でも、高貴な女性をというお望みが深くて、前斎院などをも、今でも忘れがたくお便りなさっているそうです」
と申し上げる。
「いや、その衰えない好色心こそが、たいそう気がかりだ」
とはおっしゃるものの、
「なるほど、大勢の女性たちの中に交わって、不愉快な思いをすることがあっても、やはり親代わりと定めたことにして、そのようにお譲り申し上げようか」
などとも、お考えになるのだろう。
「本当に、少しでも結婚させようと思う娘を持っていたら、同じことなら、あの人の側に添わせたいものだ。長くもないこの世の間は、あのように満ち足りた有様で過ごしたいものだ。
私が女だったら、同じ兄弟であっても、きっと睦まじく寄り添っただろう。若かった頃など、そのように思われた。まして、女が欺かれるようなことがあっても、まことに、もっともなことだ」
とおっしゃって、心の中では、尚侍の君のことも、自然と思い出していらっしゃるのだろう。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。